お前もブルーライト

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 踏切の警報音がけたたましく鳴っていたのをよくおぼえている。  俺の住む町にコンビニができたのは俺が小学五年生の時だった。オープンして約一カ月たったその日、俺は母に連れられてそのコンビニを訪れていた。もう蒸し暑かった初夏の夜、風呂上がりのアイスを買うためだったと思う。  そのコンビニは県道を横切る踏切のすぐそばにあって、コンビニの駐車場からは踏切を渡る電車を間近に見ることができた。コンビニの周辺は水田が広がっていて、コンビニ以外の建物は立っていなかった。夜になればコンビニの看板や店内の明かりと踏切の遮断機の上に設置されたブルーライトが暗闇の中を浮かんでいるように光っていた。  その日、母の運転する車でコンビニへ到着したのは、閉店間際の二十三時少し前だった。都会のような二十四時間営業のコンビニではなかったけれど、商店やスーパーが二十時に全部閉まってしまう俺の町では夜にお菓子やアイスが買えるこのコンビニは便利が良く、閉店間際にもかかわらず、コンビニの駐車場にはチラホラと人の姿があった。 「あら、奥さん、ごぶさたです~」  車を降りてすぐ、母は見知った人の姿を見つけたようで、挨拶をしながらヒョコヒョコと歩いて話しかけた。  これは長話になりそうな予感。俺は母の服のスソを引っ張ってコンビニが閉まっちゃうから急ごうとアピールした。そんな俺を無視して母は立ち話に興じ始めた。  諦めず母を動かそうと頑張っていると、いきなり踏切の警報音がけたたましく鳴り始めた。いつもと同じ音量なのかと疑うぐらいカンカンと甲高い音が耳に痛かった。  警報音に顔をしかめながら俺は踏切の方へ目をやった。見ると、踏切の遮断棒のすぐ前に母子が立っているのが見えた。なぜだかわからなかったが、その二人からしばらく目が離せなかった。 「なんだろう、あの感じ」  ただ踏切を待っているようには見えなかった。遮断棒にお腹が当たるぐらい踏切のギリギリに立っていた。傘の柄のように首から背中をU字に曲げて、ひどく俯いていた。踏切に設置されたブルーライトが二人を照らしていた。青い地面に落ちた二人の影はとても薄く見えた。

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