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腐った林檎
夜中に目が覚める。どこからともなく甘く、鼻をつく不快な匂いが漂ってくる。
これは気のせいだ、幻覚なんだ。そう自分に言い聞かせる。
目を閉じて布団に潜り込むけれども、幻覚は僕から離れてくれない。瞼の裏には今まさに目の前にあるかのように、ある光景が広がる。
地獄の釜のような大穴に放り込まれる大量の死体。穴の下の方の死体は腐っていて、腐敗臭が漂い虫がたかっている。さんさんと降り注ぐ夏の陽が恨めしかった。
幻覚を振り払おうとする。あの疫病はもう去ったんだ。もう大丈夫なんだ。
そう思っても腐ったはらわたと甘ったるい林檎が混ざったような匂いが忘れられない。
疫病で死んだ人々は、今では塞がれた地獄の釜の中で眠っている。
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