飴珠-あめだま-

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 ――南の海には、シャコ貝という巨大な貝が生息していると聞く。1メートルをゆうに超える殻の内側には、カラフルな藻が生い茂っていて、得も言われぬ美しさだとか。  しかしこの貝は、物騒な噂と切っても切り離せない。規格外の殻は挟む力も強大で、ダイバーが腕を挟まれてしまい、海面に浮上できないまま溺れ死ぬ事故があったそうな。――もっとも、これはかなり誇張された話で、実際は余程のノロマでもなければ、シャコ貝に噛み付かれることはないらしい。  ――でも。それでも、やはりいたのではないかと思う。貝の美しさに見蕩(みと)れ、殻の中へ腕を伸ばしながら、時間を忘れてしまった馬鹿者は。死に向かう道だと自覚していても、突き進まずにはいられなかった憐れな男は。  俺のポケットには、例の真珠が入っている。ティッシュで何重にも(くる)んで、肌身離さず持ち歩くようにしている。退屈な日常を送っていると、たまにどうしようもなく、それを口に含みたくなってしまう。かつて飴玉だったものが、今はどんな味なのか。確かめたくって仕方がなくなる。なけなしの人間性が抵抗するおかげで、何とか踏み留まれてはいるが、いつまで()つか分からない。――踏み留まる意味も、分からなくなってきた。  ――最近、口の中が妙に塩辛い。息もゴホゴポ切れるのだ。

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