―序章―

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「今年も、もうそんな時期が来るのか…」 昨日実家の母から届いたハガキを眺めながら、克樹は呟いた。 ハガキには、元気で過ごしているか、お盆には帰って来れるのかと、母の懐かしい字が並んでいた。 母はメールや電話より手紙を書いてよこすのが好きな人だった。 ハガキの最後には今年はとても暑いけど夏バテには気をつけて下さい、と書いてあった。 そういえば最近は暑い日が続いていた。 もう夜8時過ぎだというのに部屋の中は30度近くはあるだろうか。 ハガキをテーブルにそっと置き、水滴がびっしりとついたコップの麦茶を一気に飲み干した。 狭い部屋の中にある東京へ来て最初の年に買った、ちょっとくたびれた扇風機もフル稼働している。
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