「ね、今夜どう?」
「悪いけど、他を当たってくれる?」
「なんでだよ。アンタ来るもの拒まずって聞いたけど」
「いや、さすがに好みじゃなきゃ断るっしょ」
オレの言葉に顔を真っ赤にした男が暴言を吐いている。ま、そんなの気にしないけどね。この店で暴れたらごっついヒロママがつまみ出すんだから。
それをわかってるから、オレに負け惜しみの遠吠えをしつつも、アイツはヒロママをちらちら見ながら店の奥に戻っていった。どうやら知り合いがいたらしいけど、そいつに慰められてるのがだせぇ。
「あんた、ああいう言い方は敵を作るからやめなさいよ」
「でもワンナイトなんてそんなもんだろ? その場ではカッとなっても、みんなわかってるよ」
「そういう子もいるけど、そうじゃない子もいるじゃない」
「はーいはいはい。もう一杯おかわり」
ジンのロックをおかわりすると、店内を見回す。だめだ……今日はハズレすぎる。基本は一回寝たらそれきりにしているから候補が減ってるっていうのもあるんだけど。
その後もしばらく粘って、ドアがチリンと鳴るたびに振り返るけど、顔見知りのネコとかあんまりタイプでない男ばかりが入ってきていた。
いいのがいたら自分から声をかけてもいいけど、いないんだからしょうがない。
「はぁ……お会計お願い」
「あらぁ、もう帰るの?」
「あーうん。だって好みのタチが全然いないし。時間の無駄っつーか」
「あんたねぇ……」
「ヒロママ、説教はいらないから。じゃーね」
折角の週末なのに、行きつけのゲイバーでは相手が見つからなかった。声をかけてきたヤツもあんなのばかりだし、長居をしてもしつこくされるだろうから会計をして店を出る。とはいえ……いい男、落ちてないもんかなぁ。
超大手ではないものの、そこそこ名のしれた会社の営業として頑張って、個人業績も自慢じゃないがいい方。そうやって日ごろ抑え込んで働いて、金曜は一週間頑張った自分へのご褒美だと、遊び相手を見つけて一夜を楽しんでいたのにがっかりだ。
そういう店が多い繁華街の裏手を歩きながらオレは不満をこぼしていた。
「うーん、ハッテン場はあんまりマナー的に好きじゃないからなしだろ。初見の店はあんまり気が進まないけど、探してみるのも……ん?」
路地の少し先、街灯の下にでかい影が見える。光はあたっているけど、黒い塊にしか見えない。
今どき黒いゴミ袋はないよな?
そう思って近づいてみると──。
「うひぁ! 人間じゃん。え、生きてる?」
思わず悲鳴をあげたのは、そいつがぼろっぼろだったからだ。喧嘩でもあったのか、顔も腫れて口の端から血が流れている。地面の汚れと血となんかいろんなもんが混じってついていて、一瞬だけ汚ねぇ……と思ったけど、そいつが声もなく泣いていたのが見えて、どうしたらいいのかわからなくなった。
「あ、えっとぉ、大丈夫っすか?」
動かない……構わないほうがいいやつ?
もしくは、しんどすぎて動けないという可能性もあるかもしれない。
「救急車、呼ぶ?」
そこまで聞いて、やっと首を振ったのが見えた。大丈夫ってことなのかもしれないけど……いや、でも血が出てるし……ああ、もう!
こんなんで後日、冷たくなったこいつがみたいなニュースでも見たらオレの寝覚めが悪すぎるじゃん。なんで今日に限ってこんなところいるんだよ。勘弁してくれ。
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