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ホテルの部屋のドアを後ろ手に閉めると、俺たちはクチビルを重ねた。いや、そんなに優しいものじゃなかった。俺たちは互いのクチビルにしゃぶりついた。野性味あふれるTボーンステーキさながら、その弾力を味わいあった。舌は性欲に乗っ取られ、口内をのたうち回った。その様は、水の勢いを強くしたシャワーヘッドが風呂場で暴れまわるそれであった。もう、何のためにキスをしているのか、本能は暴走していた。思うままに絡まりあい、二人の舌は相手のすべてを奪おうとぶつかりあった。
口の周りと言わず、二人の顔は唾液でベトベトだった。激しい攻防のさなかに唾液を飲みこむ余裕なんてなかった。口内を飛び出した舌は時折相手のクチビルや鼻の下、アゴや頬を這って唾液で濡らした。やがて乾いていくそこだが、永遠とも思える長きにわたる攻防により、乾いたしりからふたたび舌に這われるので、ずっとベトベトなままなのであった。
部屋の入り口から備え付けの机、カーテンをわざと開け夜景の見える窓、そのあと攻守を何度も入れ替えるベッド、かなりの時間をかけて二人は情事の場を移したが、その間ずっとキスをしたままでいた。執念。激しい愛は命を賭けた密着だった。
ホテルの部屋は東京タワーが真横に見える位置にあった。カーテンを開けた窓の向こうには東京タワーがそびえ立っていた。明かりをつけないのに部屋は、東京タワーのせいで情熱の炎が燃えさかるように赤く明るかった。それがぱっと翳った。
(もう午前零時を過ぎたのか)
俺は我に返り、彼女のクチビルから顔を離した。その瞬間、フッと笑ってしまった。
彼女も我に返ったのか、恥ずかしそうに笑った。
「ちょっと二人でケモノになっちゃったね」
「いや、そうじゃないんだ」
「え?」
(違うの?)と驚く彼女。俺が笑ったのは本能をむき出しにしてしまった恥ずかしさからではなかった。
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