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記者会見
記者会見の場は、解放の興奮と緊張感に包まれていた。
日本人記者が前に出て、彼の心境を尋ねた。
金は静かにメモ用紙を取り出し、日本語で書き始めた。
「暗闇の中でも尚 明日の日の出を信じ 地獄の中でも尚 神の存在を疑わない」
文字を書き終えたとき、彼の手は少し震えていた。
しかし、声は冷静だった。
目を閉じれば、まだ目隠しをされて車の中で揺られているような感覚がよみがえる。
誘拐される前の東京の日々、そして今、このソウルの夜。
世界は変わり、彼も変わった。
「拉致されたとき、何を考えていましたか?」
別の記者が質問した。
金は深く息を吸い込んだ。
「死を覚悟していました」
彼は静かに答えた。
「しかし、それ以上に、何のために生きてきたのかを考えていました」
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