529人が本棚に入れています
本棚に追加
退席し、「ふううう」と溜息をつく。
(だめだ。まだまだだ、自分)
貴族として、感情をコントロールしないとならない。そして、気持ちを悟られてはならない。
けれども、毎日毎日、母の愚痴を聞き続けているのが当たり前だったから。それなのに今の家では皆が優しくしてくれる。
わたしは優しさに慣れていない。
わたしは優しさに疑いをかける。
わたしは優しいと感じていたひとに裏切られるのが本当は好きだ。
「ああやっぱりこんなもんよね」と安心する。
だから、親友のアマニが婚約者を寝取った時も、あっさりと靡いたハーランにもわたしは安堵していたのだ、実は。
(わたしを大切に思うひとなんているわけがない。嫌われているのが常識なんだ)
好かれていないと何が楽かというと、他人の顔をいっさい覚えなくていいことだ。他者との交流に時間も感情も割かなくて良いことだ。
しかしわたしは今、アイフェイオン様の婚約者なのだ。研ぎ澄ました感性でひとの気配を読まなくてはならない。
「……」
わたしは料理長を思い浮かべた。
(大丈夫。わたしのお父さんでお母さんで太陽で大地で風で水であらゆる宇宙だもの)
そしてもう一度パーティ会場に戻ろうとすると「こんにちは、妹よ」と声をかけられた。
(妹?)

最初のコメントを投稿しよう!