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ここは夢の工場です。
夢の工場では、妖精のタムタムが、一人でせっせと働いています。
タムタムは、夜みんなが見る夢をつくっているのです。
お腹いっぱいチョコレートを食べる夢。
お姫様になって、王子様を待つ夢。
海を泳いだり、雲に乗ったり……。
タムタムは、毎日沢山の夢をつくります。
つくられた夢は、タムタムのペット、チャコによって、みんなの所に運ばれるのです。
タムタムは夢をつくるのが大好きです。
とってもやりがいのある仕事だし、みんなに喜んでもらえるから。
でも、とタムタムは考えます。
「僕は、一度も夢を見たことが無いんだ」
それもそのはず。
だって夢は、タムタムがつくるのですから。
タムタムはそれを考えると、いつも寂しくなります。
コーン、と、夢を運ぶ時間を鐘が知らせます。
チャコは夢が沢山詰まった袋を背中に乗せると走り出しました。
チャコが最初に着いたのは、一人の女の子の部屋でした。
まだ寝る時間でないのでしょう、女の子はベッドの上で絵本を読んでいます。
チャコは夢を、枕の上にそっと置きました。
こうすると、眠った時に夢を見ることができるのです。
チャコの姿は女の子には見えないようです。
チャコは窓からピョンと他の家に飛び移り、次の夢を運びます。
さて、女の子の部屋では、タムタムがひょっこりと顔を覗かせました。
タムタムは、こっそり夢の袋の中に隠れていたのです。
女の子が絵本をしまおうと立ち上がると、ドアの側に立っているタムタムを見つけました。
「だぁれ?」
女の子は尋ねます。
初めて他の人と話したタムタムは、少し下を向きながら言いました。
「僕、タムタム」
「タムタム?へんな名前。」
「へんじゃないよ!君は?」
「あきちゃん!」
「自分にちゃんつけるなんて、へんなの」
「へんじゃないよ!」
二人は顔を見合わせると、クスクスと笑い出しました。
「タムタム、何歳?」
「わかんない。僕、妖精だから」
「妖精!」
あきちゃんの顔がパッと輝きます。
タムタムは、うん、とうなずきました。
「何であきの部屋にいるの?」
「僕、夢をつくってるんだ」
「夢?」
「そうさ。夜寝ると見る夢のことだよ」
「じゃぁ、夢の妖精だね!」
「でも……僕一回も夢を見たことがないんだ。だから、僕の夢を探しに、工場を出て来ちゃったんだ」
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