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「一回も無いの?」
「一回も無いよ」
あきちゃんは何だか急に悲しくなりました。
タムタムが可哀想だと思ったからです。
夢はとっても楽しいもので、そりゃあ怖い夢もたまにはあるけど、夢を見れないなんて凄く寂しいと思いました。
「タムタム、あきが絵本読んであげる!」
あきちゃんはグイッとタムタムの手を引きました。
タムタムは妖精だし、幼稚園生のあきちゃんよりもずっと小さかったので、あきちゃんに引っ張られるまま、あきちゃんのベッドまで連れて行かれます。
「絵本?」
タムタムは不思議そうに尋ねます。
「あきの夢はね、絵本みたいなの。だから、絵本を読めば夢をみてるみたいになるでしょ?」
言いながら、あきちゃんはしまおうとしていた絵本の表紙をめくりました。
「あのね、タムタムと同じ、妖精のお話しなの」
書かれている文字は『ピーター・パン』。
あきちゃんはゆっくりとお話しを読み上げました。
タムタムは、初めて誰かにお話しをしてもらいました。
それはとってもとっても小さなことなのに、凄く優しい気持ちになれます。
うつら、うつら。
タムタムも、絵本を読んでいるあきちゃんも眠くなりました。
お話しはまだ途中だけど、タムタムは工場に帰らなければいけません。
「あきちゃん」
「なぁに?」
タムタムの声に、あきちゃんは眠そうに答えます。
「僕、もう帰らなきゃ」
タムタムは泣き始めました。
タムタム自身も何がなんだかわかりません。
あきちゃんは小さな手でタムタムの頭を撫でました。
「あきもね、前はお友達とバイバイするとき泣いてたよ」
眠たげな、のんびりした声であきちゃんは言います。
「でも、今は泣かないんだ。だってまた明日会えるもん」
「明日……?」
タムタムはあきちゃんを見上げます。
あきちゃんはコクリとうなずきました。
「だって、タムタムは友達でしょ?」
当然のように言ったあきちゃんの言葉に、タムタムは驚きました。
今までタムタムには友達がいなかったからです。
それでもタムタムは、笑顔でうなずきました。
「友達だもんね!」
コンコン、と窓が叩かれます。
カーテンを開けると、そこにはタムタムを探しに来たチャコがいました。
「あきちゃんは、僕の夢の妖精だから」
タムタムは言いながらチャコの背中に乗りました。
「だから明日も絵本を読んでね!大人には内緒で」
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