夢の工場

3/4
前へ
/8ページ
次へ
「一回も無いの?」 「一回も無いよ」 あきちゃんは何だか急に悲しくなりました。 タムタムが可哀想だと思ったからです。 夢はとっても楽しいもので、そりゃあ怖い夢もたまにはあるけど、夢を見れないなんて凄く寂しいと思いました。 「タムタム、あきが絵本読んであげる!」 あきちゃんはグイッとタムタムの手を引きました。 タムタムは妖精だし、幼稚園生のあきちゃんよりもずっと小さかったので、あきちゃんに引っ張られるまま、あきちゃんのベッドまで連れて行かれます。 「絵本?」 タムタムは不思議そうに尋ねます。 「あきの夢はね、絵本みたいなの。だから、絵本を読めば夢をみてるみたいになるでしょ?」 言いながら、あきちゃんはしまおうとしていた絵本の表紙をめくりました。 「あのね、タムタムと同じ、妖精のお話しなの」 書かれている文字は『ピーター・パン』。 あきちゃんはゆっくりとお話しを読み上げました。 タムタムは、初めて誰かにお話しをしてもらいました。 それはとってもとっても小さなことなのに、凄く優しい気持ちになれます。 うつら、うつら。 タムタムも、絵本を読んでいるあきちゃんも眠くなりました。 お話しはまだ途中だけど、タムタムは工場に帰らなければいけません。 「あきちゃん」 「なぁに?」 タムタムの声に、あきちゃんは眠そうに答えます。 「僕、もう帰らなきゃ」 タムタムは泣き始めました。 タムタム自身も何がなんだかわかりません。 あきちゃんは小さな手でタムタムの頭を撫でました。 「あきもね、前はお友達とバイバイするとき泣いてたよ」 眠たげな、のんびりした声であきちゃんは言います。 「でも、今は泣かないんだ。だってまた明日会えるもん」 「明日……?」 タムタムはあきちゃんを見上げます。 あきちゃんはコクリとうなずきました。 「だって、タムタムは友達でしょ?」 当然のように言ったあきちゃんの言葉に、タムタムは驚きました。 今までタムタムには友達がいなかったからです。 それでもタムタムは、笑顔でうなずきました。 「友達だもんね!」 コンコン、と窓が叩かれます。 カーテンを開けると、そこにはタムタムを探しに来たチャコがいました。 「あきちゃんは、僕の夢の妖精だから」 タムタムは言いながらチャコの背中に乗りました。 「だから明日も絵本を読んでね!大人には内緒で」  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加