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街を見下ろす看板広告。
ひっきりなしにMVが流れる液晶モニター。
濁流のように人波流れるスクランブル交差点。
塵のようにいる――人、人、人。
ビルの二階にあるカフェから見下ろすその景色はさながら蟻地獄。
そろそろ衣替えしないとなぁとは思ってた。
でも、また寒くなったらって考えが動きを鈍らせて、クローゼットはまだ冬仕様のまま。
その中から一番薄手のワンピースを引っ張り出して、中身が入れ替えるのが面倒って理由だけでここ最近ずっと使ってるバッグを肩に掛けた。
起きたのは家を出る30分前。
メイクは最低限。
髪は梳かしただけ。
アクセサリーを付けようなんて発想すら出て来なくて、靴は足が痛くなるのが億劫だからってだけの理由で選んだウエッジソール。
香水は――家を出る直前、机の端にあるのが目に留まったけど、少し考えて付けるのはやめにした。
「パッとしねえな。」
頬杖を付いて、ぼーっと窓から下を眺めてたら、背後から聞き慣れた低い声が掛かる。
「……なにが? ってか10分遅刻なんだけど。」
ストローを咥えたまま顔だけで振り返れば、そこにあるのは案の定、見慣れた顔。
昨日も、一昨日も見た顔。
この3年間ほぼ毎日見続けてきた顔。
どんなに綺麗な顔でも3年も見てれば、今更感動なんてない。
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