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こういうのを見飽きるって言うのかは分からないけど、少なくとも最初の頃みたいに見惚れるって事はない。
「普通、オンナってデートの時は気合い入れてくるんじゃねえの?」
「……はぁ?」
「アホ毛立てて男に会いにくるオンナってどうなわけ?」
呆れたように溜息を吐く和泉は嫌味なくらい長い脚を活かして、高さのあるハイスツールの椅子に流れるように腰掛ける。
かと思えば、これまた流れるような動作でカップを持ってるあたしの手ごと握り、自分の方に引き寄せ、
「……クソ甘ぇな。」
勝手に飲んでは、勝手な文句を宣う。
「文句言うなら飲まなきゃいーじゃん。」
「あ? 飲まなきゃ文句言えねーだろ。」
「……。」
今日も今日とてウザい。
白けた眼で睨むあたしを余所に、立ち上がった和泉は、カウンターに置いてあった灰皿を手に取りまた隣に戻ってきた。
ポリシーなのかなんなのか知らないけど、鞄を持たない和泉の持ち物は至ってシンプル。
黒いパンツの後ろ、左ポケットに携帯と煙草。
右には黒革の二つ折り財布。
左前には家の鍵。
「なんか飲まないの?」
紫煙を吐き出す薄い唇を横目に見ながら、そう聞けば素っ気ない声が返ってくる。
「いらね。」
「じゃ、これ飲む?」
「いるかよ。んな、甘ったるいの。」
「勝手に飲んだくせに。」
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