~ 第二十四花 逸る足 ~

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“ 怨みを重ねれば…己を失い人では失くなり…物の怪とかす…”           睦と花の魂は、赤き月が浮かぶ天の星になり魂が無くなった骸は砂の様に、さらさら…さらさらと、夜風にのり舞い跡形もなく消えて逝く。 哀しき双方の魂は、風に言の葉を乗せ…“ 有難う ”と囁き瞬いた。 百合は、天を仰ぎ瞳を閉じ祈った。閉じられた瞳から、ぽろり…ほろりと涙の粒を流した。 それを見た晴明は百合を見て…   『…其方の無垢な涙で…彼の者達は、怨霊にならず天へと召された…。いつかまた…この世に転生するだろう…』   殆ど他人に笑顔を見せない晴明が、慣れないのかぎこちなくでも…優しく笑みを浮かべた。 百合は、驚いたがその穢(けが)れなき笑みを見て、優しい救われた気持ちになった。 『…あの男を止めに行かなくては…』 と言うと、二人は踵を返し左大臣邸に足早に向かった。         ~ 左大臣 ~   左大臣邸は、雅側の出席者が続々祝いに訪れていた。 雅と将文は、座に座り出席者に挨拶をする。 雅は、黒髪に金の髪飾りを付け単衣を纏い、とても美しく愛らしい姿で頬を桜色に染め笑顔で迎えていた。 友里の父も挨拶を済ませ、座に座り出席者と酒を飲んでいる。 今宵の婚儀は、二人をとても気に入り目をかけている帝も訪れるようで、左大臣邸は用意している役人でてんてこ舞いになっている。 帝が訪れる事は、稀な事だ。 そこに…遅れて来た友里が来た。式神で事情を知った晴明の師匠 賀茂忠行が、友里の凶々(まがまが)しい気を察知し、じっと見つめる。      “ 力強き魔か… ” と、賀茂は呟き晴明の到着を待った。 友里の纏う凶々しい気が、ばちばちと身体に感じ少々賀茂は顔を歪まし、ぶつぶつと術を唱え印を結び身体に膜を張った。    “ 晴明よ…これは難儀だ ”   賀茂は心の中でそう呟いた。   晴明と百合は、左大臣邸をめざし走る。   “ 急がねば…関係ない人間が死ぬ… ”   晴明は珍しく焦りながら走る。             “ 穢れ無き人間が…命を失う感覚は…嫌な物だ。失ってはいけない命を…。人間嫌いな私が…焦っている… ”
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