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“ 己の怨みや憎しみでは…何も変わらない。 自分自身が変わらぬ限り…新たな道は…開かん ”
婚儀の会場…左大臣邸には、人が溢れている。左大臣の娘雅は、周りからも可愛がられ愛されている。
あの愛らしい容姿、人を分け隔てなく思いやる温かな慈悲深き心…。
あの平安京を納め、自分に厳しき帝でさえも…その温かな心で魅了した雅は、愛される存在だ。
その雅が今宵…婚儀をし、妻になる。
帝は、雅の相手が雅楽師の天野将文と聞き、それは大喜びし今宵の宴に出向いた。
帝はご機嫌良く、御簾(みす)ごしに新しい門出を迎える二人と、婚儀の宴に訪れた皆(みな)を笑顔で眺めていた。
招かれた者達は、晴れ姿の二人の所へ行き温かい言葉を掛ける。
皆陽気に笑い酒を酌み交わし、初々しい二人を眺め、桜花を堪能していた。
少し遅れて来た友里は、二人の所へ行く。
『…おめでとう…良き門出のだね…』
とくすりと笑いながら二人に言う。
雅は友里の顔を見て、にこりと笑うと…
『友里様…お昼間はとても助かりました。有難うございます…今宵来て下さり嬉しゅうございます。』
とにこりと優しく笑みしながら言う。
友里はその笑顔に、どきりとしなが笑みを浮かべる。
将文も頭を下げる。
友里は、手に持っていた扇子に力を入れ握りながら般若の自分の顔に、優しき笑みの仮面被る様にして笑い、二人から離れ人が余り居ない桜花の木の幹に腰を下ろし、酒を飲む。
すると…体内で修羅の声が響く。
“サァ…イツ…殺スカ……”
低い声で囁き、くつくつと喉の奥で笑う。
“まぁ…焦るな…宴はこれから”
そう言うと、ぐいっと杯を煽る。酒を継ぎ足した杯に、ひらり…ひらりと一枚の桜花が舞い散った。小さな波紋を起こし、友里は妖艶に笑うとそれを飲み干した。
人の命も花も…いずれは散りゆく物…
邪魔な枝や芽…邪魔な物は…早く切り捨てなければ…己自身の邪魔でしかない…。
そう心の中で呟きながら、友里は初々しく微笑み合う二人を遠くから見る。
晴明と百合は走る…。
もう…他の哀しき血を流させぬ様に…急いだ。
悍ましい力が…解き放たれる前に……
“ 己の心を手放してはならない…弱くとも…強くとも…決して手放してはならない…己が己でなくなる… ”
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