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“ 哀しき人の泣き声…。哀れな人間の叫びがこだまし…悪鬼が共鳴し…血を欲する… ”
赤き不吉な月が、目を懲らす様に…平安京を見つめる。
何も語らずただ…ただ…じっ…と…初々しい二人の門出を目を懲らしながら…見つめている。
宴は楽しげに、人々の笑い声や喜びの歌を唄う者達の声が響いている。
初々しい晴れて夫婦(めおと)になった、左大臣の娘雅と雅楽師の息子将文は、微笑み合い宴を楽しむ人々を嬉しそうに見ている。
その時、御簾(みす)ごしの帝が雅に声を掛ける。
『雅よ…我に其方(そなた)の、笛の音を聴かせてたもう…。』
笑顔を浮かべ、帝が雅に言うと雅は嬉しそうに笑みを浮かべ、“はい”と二つ返事をした。
雅は、絹に頼み笛を持ってきて貰い庭の中央に用意された舞台に上がる。
周囲は静まり返ると、雅に集中する。
深く息をつき…雅は笛を吹き始めた。
甘やかな笛の旋律が、皆(みな)の胸に染み渡る。
月光に照らされた桜花は、風に乗りひらり…はらり…と舞い散っていく。
雅の笛に誘われ、先程まで強めに吹いていた風が…ふわり…ふわりと柔らかな風になり、桜花を運ぶ。
皆は、“おぉ…”と歓喜の声を上げ桜花を見上げ、嬉しそうに笑う。
その嬉しそうに笑う人々を見て、また雅も優しく笑みを浮かべた。
将文も嬉しそうに笑い、雅を見守る。
その姿に…友里は、苦虫を噛み潰した様な顔をし酒を煽る。
“ 私の姫だ…私の…”
酒を煽り立ち上がると、自分の父親と父親の知り合いの話声が聞こえてくる。
『天野家は、羨ましいの~。あんな愛らしい…しかも左大臣家の娘を娶る等…。其方の息子も残念だったな』
父親は話を聞き、酒を飲み…
『わしの息子は駄目だ…。天野何ぞに敵わぬものか…』
と呟き笑う。
友里は、がたがたと怒りに打ち震えた。
友里は立ち上がり、父親に掴み掛かる。
『!友里!』
父親は驚き目を見開いた。
周りは騒ぎに気付き、ざわついた。雅も笛を止めおどおどとし。
『…お前は…いつもそうだ!私を馬鹿にする!お前の所為(せい)で!』
友里は、胸倉を掴み怨みを募らせながら父親を見据えた。
“ 何故…相手を愚弄するのだろう…己は完璧なのか…?許せぬ…お前を……… ”
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