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“ 鬼になりし者…自我を忘れ欲望のままに… 女人の悲しみの叫びが…木霊(こだま)る”
刀を拾い上げ晴明に襲い掛かる。素早く走り晴明に向かってくる。
『ハァーッ!!』
だが、また晴明は優雅に狩衣の袖を巧みに操り、ひらりと刀と友里を交わす。
ざざっと玉砂利を擦りながら、止まり物凄い形相で、晴明を睨む。
『オノレ…小僧…。』
ぎりぎりと歯を鳴らし、友里は晴明を睨む。
晴明はそれに負けじと友里を見て…
『もう、止めよ…己の自我を捨ててはならぬ。人を捨ててはならぬ。』
晴明は友里に言う。が、友里は笑い出した。
可笑しそうに笑う友里を怪訝そうに眉をしかめ見つめる。
『自我…?フフフッ…自我等…トウの昔に捨てたわっ!』
友里は豪勢に笑い出した。
その時っ!
『貴方様は、その様な方ではございませぬ!友里様!』
声がした方を皆(みな)目を向けた。
雅だった。将文も驚き目を見開いた。
雅は言葉を続ける。
『貴方様は…とてもお優しいお方…鬼ではございませぬ。』
先程まで居た場所から少し前に出て、友里に呼び掛ける。
綺麗で澄んだ瞳から次々と涙が…頬を伝う。
『ただ…友里様は…悪(あ)しき者に、支配されただけ…どうか…どうか…友里様…お心を強くお持ちになって……』
無垢な悪無き涙を、次から次へと…頬を伝う。
友里は、身体を震わせていた。
かちゃかちゃ…刀が鳴る。
友里の中の中…奥底の友里自身の理性が、動き出す。
『…雅殿………』
友里は、雅を見る。
先程の様な、殺気が消えてゆく感じがした。
“ 女人の清らかな涙を流し…心に訴えかける。 理性は動き正気に戻るだろうか… ”
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