~ 清らかな涙 ~

2/2
前へ
/180ページ
次へ
“ 鬼になりし者…自我を忘れ欲望のままに… 女人の悲しみの叫びが…木霊(こだま)る”             刀を拾い上げ晴明に襲い掛かる。素早く走り晴明に向かってくる。 『ハァーッ!!』 だが、また晴明は優雅に狩衣の袖を巧みに操り、ひらりと刀と友里を交わす。 ざざっと玉砂利を擦りながら、止まり物凄い形相で、晴明を睨む。 『オノレ…小僧…。』 ぎりぎりと歯を鳴らし、友里は晴明を睨む。 晴明はそれに負けじと友里を見て… 『もう、止めよ…己の自我を捨ててはならぬ。人を捨ててはならぬ。』 晴明は友里に言う。が、友里は笑い出した。 可笑しそうに笑う友里を怪訝そうに眉をしかめ見つめる。 『自我…?フフフッ…自我等…トウの昔に捨てたわっ!』 友里は豪勢に笑い出した。   その時っ! 『貴方様は、その様な方ではございませぬ!友里様!』 声がした方を皆(みな)目を向けた。 雅だった。将文も驚き目を見開いた。 雅は言葉を続ける。 『貴方様は…とてもお優しいお方…鬼ではございませぬ。』 先程まで居た場所から少し前に出て、友里に呼び掛ける。 綺麗で澄んだ瞳から次々と涙が…頬を伝う。 『ただ…友里様は…悪(あ)しき者に、支配されただけ…どうか…どうか…友里様…お心を強くお持ちになって……』 無垢な悪無き涙を、次から次へと…頬を伝う。 友里は、身体を震わせていた。 かちゃかちゃ…刀が鳴る。 友里の中の中…奥底の友里自身の理性が、動き出す。 『…雅殿………』 友里は、雅を見る。 先程の様な、殺気が消えてゆく感じがした。         “ 女人の清らかな涙を流し…心に訴えかける。 理性は動き正気に戻るだろうか… ”
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加