~ 第三十五花 母の力 ~

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“ 笛の音が…未練や苦しみの鎖を引きちぎり…黄泉へと誘(いざな)う。またいつか…人として転生する事を夢見ながら… ”             雅と忠行と雅の父は、哀れな魂が修羅に、喰らわれてしまわない様に懸命に祈りの音と呪(まじな)いを施し、黄泉へと導く。 哀れな魂は、綺麗な涙を流し安らかな笑顔を遺し、天駆ける星になって逝く。 きらきらと音がする様に…神々しく光を放ち空へ旅立ってゆく。   『…貴方達に安らかな眠りを…』   と笛を止め一人一人に、雅は優しく微笑みながら声を掛けてゆく。   今で言う“聖母”“女神”の如く…彼の者達の苦しみや怒りを鎮め、温かく包み込む様に…。 忠行は呪(まじな)い施しながら、雅に目を向ける。   “何て言う…神々しい娘なのだろうか…。母君譲りか…。”   と心の中で呟いた。 雅の母は、陰陽師にゆかりの者で“巫女”として雅楽や祈祷の時、舞いを踊る役目にあった。 だから、陰陽師の忠行と晴明が今宵の婚儀に呼ばれた訳だ。 母親が亡くなり、ひそかに雅が力を受け継いだのか…と忠行は思った。 この神々しく優しい気を纏った雅を忠行は見つめた。       哀れな魂達を黄泉へ導く一方、晴明・将文・友里は…修羅と相見える。 がしゃん…がしゃん!と、刃と刃がぶつかり合う。   『オノレッ!!虫ケラドモッ!』   修羅は怒りの叫びを上げ、襲い掛かる。先程、友里に斬り付けられた腹からは、夥(おびただ)しい血が流れる。   『虫けらに…虫けらとは言われたくはないが…!』   小刀で応戦する晴明が、冷酷に笑みしながら言う。   『お前等に、京を汚(けが)させはしない!』   将文は、額に汗しながらぎりぎりと襲う刃を交わしながら言う。   『許サヌゾ!許サヌゾ!』   刀をぶんと振り修羅は怒りを露(あらわ)にしながら叫ぶ。 晴明と将文は、交わしたが友里は腕を掠る。   『ッ!!』   友里は腕をを押さえその場を少し離れた。   『友里殿!』   将文は友里に駆け寄る。   『大事ない!将文殿』   友里は刀を構え将文に言う。       雅も額に汗を光らせ、笛に祈りを込める。 忠行は手を休めず雅に話掛ける。   『流石…皐月殿の娘だ。聖なる力を受け継いだ。』   忠行の言葉に、雅は忠行を見た。     “ 母様の力…。やはり…鈴の力は母様の…。温かい力が私にも… ”
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