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“ 修羅は目を疑う…あの顔は…… ”
雅はゆっくりゆっくりと、修羅に近付いてゆく。
力一杯拳を握りしめ…決意を固める様に…。
皆(みな)は、口々に叫ぶ。
『危のうございます!』
『御止め下され!雅様!』
雅の父佐伯は、叫びたいが言葉が出てこない。
己の妻…所謂、雅の母親が“巫女”だった姿を思い出し、何も出来ない己自身が悔しく…唇を噛み締め拳に力を込める。
帝は、事を固唾(かたず)を飲んで見守る。
“我には…何か力がないか…”そう考えると、帝と言う地位は小さき物だと…扇をぐっと握る。
神々しい気が、雅を包み込む。
淡く眩(まばゆ)き光りが、優しく雅を包む。
修羅は、眩しい正の光りに目を痛むと言う様に、眉間にシワを寄せる。
『さぁ…わたくしが話を聞きます。修羅…貴方を縛る物を教えて下さい…。』
庭の砂が付き汚れた着物を擦りながら、雅は修羅に問う。
修羅は…思った。
“ コノ者ハ…何故(なにゆえ)…我ニ問ウノダ…。我ニ等…。コノ顔…見覚エガ… ”
眩い光りを放つ雅を見ながら修羅は思う。
見覚えのある顔が、ゆっくり…ゆっくりと近付く。
『もう…己をも傷付ける事はないのです…。』
優しく微笑む顔…
優しく囁く声……
聞き覚えがある…見覚えが…ある。
修羅の脳裏に薄れていた記憶が、徐々に甦ってくる…。
微笑み合う…誰かと自分…
囁き合う…誰かと自分…
涙を浮かべ…助けを求める……
菖蒲(あやめ) ………
“ 頭が痛む…きりきり痛む…
この記憶が…我を……… ”
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