~ 真(まこと)の名前 ~

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“ 遠い薄れていた記憶が…脳に蘇る…。愛おしい…名を呟く…。…菖蒲…… ”               真っ直ぐなまでの雅の視線が、修羅を刺す。神々しく…無垢な“白”を纏った彼の人を見る。 悪鬼と化した己の眼(まなこ)が、雅を捕らえる。 雅の顔や姿が…薄れていた記憶な中に生きている…“菖蒲”を思い出させる。 修羅は、グゥゥと唸りきりきりと痛む頭に手をやる。 人間を憎み…神を憎み…この醜き悪鬼になった修羅…。 修羅の中に蘇った記憶が…修羅を苦しめていく。 雅をもう一度見る。   雅の姿が……“菖蒲”に見える。 雅の口許(くちもと)が…………      蒼助(そうすけ) 様…   と…呼ばれた気がした。 蒼…助… …己の名… 修羅は、記憶の波に飲まれそうになる。 次々に闇に葬ったはずの、記憶が…一つずつ…一つずつ蘇り、修羅を現実へと戻してゆく。 “悪鬼”としての“修羅”ではなく… “人間”としての“蒼助”に…。   『グッ……グァァァ…!止メロ…止メテクレ…!』   双方の手で、顔を覆う。 修羅が記憶に苦しんでいる姿を皆(みな)息を飲み見つめる。   『お願いです…。独りで苦しまないで…。貴方を悪鬼にした理由をお話して下さい。』   苦しむ修羅を包み込む様に…雅は優しい笑みを浮かべながら言う。 顔を覆う手の隙間から、見た雅の優しい笑みは………         愛おしい“菖蒲”だった…       “ 人間は…過去によって変化する…。辛い過去を背負う者は…永久に癒える事のない時を過ごし…悪の霧に前が見えなくなる時も…ある ”
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