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“ 心泣き 隠し切れない この思ひ 心の氷河 溶けるか否か ”
修羅は震えながら、刀を手にした。奥底まで見透かされた様で…哀しく…また…温かい。
その己を見つめる雅の眼(まなこ)が痛く突き刺さり、刀を構え様とする。
すると、周囲に居た武士や近衛府達は、ざざっと動き刀を構えた。
将文と友里も、雅を守る為に前に出様と身体を動かすが、雅は横に手を翳(かざ)した。
皆(みな)その姿を見て、一瞬戸惑う。
雅は周囲や後ろに居る者達に向けて口を開く。
『どうか…皆様!御手を出さぬ様…。わたくしに…わたくしにお任せ下さい。どうか…わたくしの我が儘ですが…お聞き下さい。』
周囲を見ながら、皆や帝に切望の想いを伝えた。
帝は少し考えるが、扇子をぱちりと畳み口を開いた。
『左大臣の雅姫…あい解った。姫に任せよう。ただ…姫の身に何かある場合…手を出させて貰うぞ…よいな?』
その言葉を聞き、姫は安心した様に優しく笑みを浮かべると、頭を下げた。
雅は、目線を修羅に戻した。
『蒼助様…刀を御下ろし下さい。貴方様のお話…聞かせて下さい。』
また修羅に向けて…優しく笑みを浮かべた。
“ 菖蒲 ”
修羅の瞳に…愛した…否…今も愛して止まない…菖蒲の残像が雅に重なる。
修羅はかたかた震える手から、刀を落とす。
がしゃりと大きな音がした。
『…菖蒲…。』
修羅はそう呟きながら、大きな身体を崩し片膝立ちになる。
“ 哀しき想いが…身体を駆け巡る。消せない記憶が…怨念を作り出した…。修羅の心を固める氷河は…溶けるのだろうか… ”
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