~ 第四十一花 忌まわしい過去 ① ~

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“ 在りし日の 君を想いて 泣き濡れる 残像だけが 涙で揺れる ”               愛して止まない…“菖蒲” 雅の姿が…“菖蒲”に見える。 我ノ頭は…狂ってしまった。 修羅は、下を向きふるふると震えながら…ゆっくりと口を開いた。   『…我は、人だった頃…近衛府の中将をしていた。幼い頃から…父の教えで帝を守れと…教えられた。元服を迎え近衛府になる為…懸命に学問や鍛練を積み…一人前になったある日…ある位の高い家の姫君に出会った。彼の人は…琴に秀でた姫で…周りの男達が求婚する様な、容姿も内も綺麗な姫だった。我は…意を決し…恋文を書いた。慣れぬ文は…時間が掛かり何度も書き直した。そして…文を書き上げ遣いの人間に頼み渡した。返事は…来ない物だと思っていたが…ある日姫の遣いから文を渡された。半信半疑で…文を開いたら…綺麗な文章で会いたいと書いてあった。我は…宵の口姫に会いに行った。御簾(みす)ごしだったが…姫はとても明るく美しかった…。それから姫と我は…逢瀬(おうせ)をする様になった…。夜会いにゆき愛を語らった…。我には至福の時だった…。ある夜…決心し姫に契りを交わした。姫は…泣きながら喜んでくれた…。次の日…姫の父上に許しを得て…三日夜通う事になった。 我は…嬉しくてたまらなかった…。姫を自分の妻に出来ると…   でも……ある日……悲劇が起きたのだ……今も忘れられない…忘れる事等……出来ぬ……』   修羅は拳を強く握りしめ…唇を噛んだ。 雅は黙って静かに話を聞く。       “ 忘れられぬ…忌まわしい…あの日の事…… ”
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