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“ 赤月夜(せきげつよ) 冷たき君の 骸(むくろ)抱く 嘆きの叫び 虚しく響く ”
苦しそうに…悔しそうに力強く握った拳を地に叩き付ける。
唇を噛み締め震えながら…。
その姿を見た、雅は胸が苦しくなった。
胸の痛み…と言うより…心の痛み…。
修羅…否、蒼助の味わった悲愴・絶望…様々な感情が、雅の心に痛く伝わる。
その蒼助の頬を伝う涙が…静かに流れる。
蒼助は、また静かに口を開いた。
『姫を自分の妻に迎えられる…我は嬉しかった。三日夜…姫の元へ通うのが…何より我の心を癒した…それなのに…それなのに………。』
蒼助は、また静かに涙を流した。
がつ…がつ…と、硬く握られた拳を地に打ち付ける。
何度も…何度も。
雅は耐え難い苦しみに苛まれる。
そっと…蒼助に近付くと、鬼に変化(へんげ)しごつごつした人の手ではない手を…白い手がそっと置かれた。
『…蒼助様……』
蒼助は己の手に置かれた事に、びくりと身体を跳ねさせる。
驚き目を見開いて雅を見る。
『ナ…何をする…。我ニは…触れルな…!お前……其方を…穢(けが)れで苦しメテしまう…』
雅の置かれた己の手を、引っ込め様とするが雅は掴み、首を左右に振る。
『いいえ…穢れ等気に致しませぬ。貴方様の痛み…苦しみ…絶望は、わたくしが穢れるより…遙かに痛とうございます。』
雅も涙をはらはらと零しながら蒼助に言う。
“ 人の痛みは…それぞれある。他人とは比べがたい痛みを…人それぞれ抱える…。 ”
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