~ 第四十ニ花 忌まわしい過去 血の戦慄 ~

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“ 桜吹雪 冷たき君の 髪揺らす花びら散りて 骸に落ちる ”               その優しい雅の涙がまた…修羅の心に突き刺さる刺を抜く。   『其方(そなた)ハ…優しイ姫だ…鬼ニ喰らわれた我ヲ…癒してくれる…何故だ?』   大きな修羅の鬼の眼(まなこ)からも、涙が零れ頬を伝い落ちる。   『貴方様は…悪い方ではありませぬ。とても…人を愛してやまぬ…器の広き御方です。』   雅は、修羅の手を強く握り優しく微笑んだ。 その微笑みがまた…菖蒲を思い出させる。 そして…修羅はまた口を開いた。   『…三日夜の最後の夜…我は、姫の屋敷に出向いた。そこで見たのは…』   修羅は、苦しそうに唾を飲み込み話そうとする。 唇をかたかた震わせながら、口を開こうとするが、恐怖感と絶望感と怒りでなかなか話せないでいる。 周囲の人々も、その痛々しい修羅の姿に苦しげな表情を浮かべ待つ。   『蒼助様…ゆっくりで構いません。』   もう片方の手を修羅の手に重ねる。 そうすると、修羅は苦しい…痛々しい表情をしながらまた唾を飲み込み口を開いた。   『…屋敷の門を開け…声を掛けた。掛けたのだが…誰の声も聞こえぬ…おかしいと一瞬で気付いた。玄関の戸を開けた…その時…嫌な気配がした。空気が重い…嫌な臭いがした…。その…臭いは何なのか直ぐに…解ったのだ……。』      “ 血の… 鮮血の臭い… ”     その言の葉が響き渡った瞬間… 周囲の人々は、凍り付いた。    
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