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“ 血の気が引く恐怖が…私を襲う…。その先に待つ結末を…見るのが怖い…。怖くて…仕方ないのだ… ”
身体が震える…。嫌な汗が全身を…じわり…じわりと濡らしていく。
女房の変わり果てた骸は、苦しみと断末魔に歪み、目をぎょろりと見開いている。
何かを訴えているかの様…
蒼助は、かたかたと震える手を女房の顔に延ばし、見開き色彩を無くした眼(まなこ)に手を置き、ゆっくりと手を下ろした。
女房の眼は、閉じられた。
蒼助は、合掌し念仏を唱えた。
どうして…何故(なにゆえ)…この様な事に……!
合掌した手を解き、床を拳で殴り付けた。
拳からは、赤き鮮血が滲み始める。
痛み等…感じない。
こんなちっぽけな怪我等より…
心が…折れてしまう…痛みの方が…
痛い
蒼助はゆっくりと立ち上がり、ふらりとふらつく身体を柱に預け他の部屋へ向かい始める。
台所へ向かと、生臭い…魚ではない…異臭が立ち込めていた。
夜の漆黒の闇の中では、眼を慣らすのに時間が掛かった。
奥の竈(かまど)に微かに火がついているのを頼りに、ゆっくり入っていく。
鼻につく異臭が、また吐き気を振り返す。
歩み進めると、足に柔らかな感触が当たり、躓(つまず)きそうになった。
必死に踏ん張り、身体を起こし躓いた物をよく見る。
ぱち…ぱち…と火花が散り、新たに木が燃えた明るさで辺りの様子が解る。
『………ッ!?』
この屋敷に仕えているのだろう…女房の一人と、男が倒れていた。
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