~ 胸の内 ② ~

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爽やかな風がそよぐ午後。 佐伯邸の姫、雅は琴の稽古をしていた。 琴の繊細な音が屋敷中を優しく響き渡っている。 暫く琴を演奏していると…廊下から衣擦れの音が部屋に近付いてくる。 部屋の前で、衣擦れの音が止まり声が聞こえた。 『雅様…雅楽師天野 将文邸の女房殿から、雅様に文をと参られました。客間でお待ちになっております。』 女房が、部屋を開けず雅に伝える。 『解りました。ただ今そちらに向かいます。』 雅は、静かに答えた。 ゆっくりと座から立ち上がると、歩き戸を開け待たせている客間に向かった。 女房は、一礼をし雅の後を歩く。 客間に向かうと、将文の遣いで歳は40後半位のしっかりとした女房が座って、雅に一礼をする。 『お待たせ致しました。雅楽師の天野様の御仕えの女房との事、本日は如何致しましたか?』 雅は、優しく微笑むと近くに座った。 『初めまして、天野将文の仕え女房の早紀と申します。お忙しい中申し訳ありません。我が主人から文を預かり、本日参らせて頂きました。』 女房の早紀は、申し訳なさそうに頭を下げる。 『お気になさらずに…文を預からせて頂きます。頭をお上げ下さい。』 にこりと笑みし、早紀の肩に優しく白い手を乗せた。 『有難うございます。』 早紀は顔をゆっくり上げ、雅に頼まれた文を渡し、雅の顔を見た。 …なんて、お優しいお顔…まだ幼さは残っているけど…しっかりした方。 早紀は、心の中で思った。 『文のお返事は、すぐの方が宜しいですか?』 文を手に持ち、早紀に聞いた。 『はい、出来ましたら…。』 また頭を下げ答えた。 『解りました。少しお時間を下さい。香苗…早紀さんに、お茶を用意して差し上げて下さい。』 雅は、仕えの女房香苗に言うと… “暫く、自室に下がらせて頂きます。暫くお待ち下さい” と告げると、ゆっくり立ち上がり客間を後にした。 ~ 自室 ~ 雅は自室に戻ると、文台の座に座り文を開けた。 文は、優しい桜色の和紙で施されている。 文を丁寧に開けると…… “君の笛 胸うち届く 我が心 月夜が待てぬ 焦りし心” 【君の笛が、胸うち私の心に届くよ。月夜が待ち切れなくて、心が焦ってしまうよ。】 雅は、将文の和歌を詠むと顔を赤くした。 ~どういたしましょう…~ 初めて…心をうつ和歌…。
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