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~貴方様の声…仕草…わたくしの心と身体に…今でも蘇るのです…~
今宵は、月の夜…
将文は職務を早々と片付けると屋敷へと戻って行った。
あの日から、私は桜姫と文をやり取りしている。他愛ない日常の話や楽の話…好みの香(こう)の香り…様々な姫の顔を知る事が出来た…私の心は、桜姫の事ばかり…。
今までの、感動の薄い日常が…桜花の様な、薄桃色に心が染まっていく…そんな感じがした。
つまらぬ上司の戯言や嫌味な仕事…顔や位目当ての女人達の偽りの愛の言の葉…私の心は、冷めていた。
~ 本当の私等誰も知らぬ ~
今宵は…十六夜。
先日の文で約束を交わした…。
一目でいい…君に…会いたい。文ではなく…筆で書く文字での会話ではなく…………
私の…口と…眼で…君と……
~ 語らいたい 愛でたい ~
私の我が儘なのだろうか…。
でも……君に会いたいのだ。
~ 佐伯邸 ~
夕日が部屋を茜色に染めていく。桜花も夕日に当たり桃色を鮮やかにさせていた。
雅は、御簾(みす)を下ろした部屋で一人考えていた。
今宵は…あの方との約束の夜
わたくしの鼓動は…早く打つ。
わたくしの顔を見たら…あの方は嫌がるだろうか…。一年前と変わってしまっていたらどうしよう…。
そんな後ろ向きな言葉ばかりが…心を支配してゆく。
文を交わしてから、毎日の日常が変わった…財や顔で文を送る男達とは…全く違うあの方…。わたくしの一方的な文の内容にも、優しい字で返してくれた…
わたくしは…あの方をお慕いしている。
心や身体が…そう叫んでいる
あの方と言の葉を交わしたい…
あの方と見つめ合いながら…
~ 語らいたい ~
心が…早くあの方に会いたいと
囁いている…。
貴方様を…お慕いしております
茜色が御簾の隙間から、雅を照らす…
雅の頬を流れる涙の雫が…茜色に染まり…着物に染みを作る。
~茜さす 夕日が照らし 部屋の御簾 頬をつたいし 雫零れる~
今でも…あの日は忘れてなどない。私の想いが…今でも来世でも…君に届く様に…。
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