~ 約束の月 ② ~

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“幾度…幾度…時が過ぎ様とも…貴方様への想い…思ひ出は、風化する事なく…輝いております…” 日没の残光が京の都を、弱くも淡く照らす。 京の民は、夕餉(ゆうげ)の準備で都は、段々…人も疎らになっていく。 烏は、数匹で群れをなして…東の山へ鳴きながら飛び去る。 天は…日没の薄くなった茜色と夜の闇が混ざり合い…紫色になっていった…微かに星々が輝き始めた。 文で交わされた約束の刻限まで…後少し…少しずつ近付く。 初めての…逢瀬…。 高鳴る胸が…自身にも確認出来る様に… “とく…とく…” 高くなり続ける…。 離れて時を待つ二人は… 自室で、両手で笛を持ち… 自身の高なり続ける心の臓に軽く押し当てた。 “貴方様に……”“君に…” 『『この高鳴る鼓動が…笛を伝って…届きます様に…』』 心の中で…願う 我が想い… 息が苦しくなる位…日毎(ひごと)夜ごと…益ばかり 残光が…徐々に弱さを増して輝く。 弱い黄金色が…部屋を指し もう少しで訪れる…約束の漆黒の月夜を待つ。 “君想ひ 胸に押し当て 笛抱(いだ)き 君に届けと 静かに想ふ” 君に会えるこの日を…私は感謝しているのだよ。 私の初めてと言ってもいい位のこの熱い想いが、君にちゃんと届ける為に…私は君に会う。 お願いだ…私を受け入れて… 静かに…確実に、約束の刻限が近付いてくる… “後少し…もう…少し” “幾年過ぎても…この身が朽ち果て…肉体が土に還り、魂が数多(あまた)の星々になろうとも…この想いは、風化せず………来世まで…輝き続ける。君と共に……” ※他の和歌の訳が、気になる方は作者まで。
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