~ 第七花 逢瀬 ~

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“貴方様の温かい胸に埋もれ…わたくしは…とても幸福にございます…” 先程の紫色の空模様は…すっかり漆黒の闇に包まれ、星が微かに輝き放ち… 待ちに待った月夜が訪れた… ホウホウ…と梟(ふくろう)が、鳴き小さく虫が鳴いている。 都には、人は外に居ない…静寂の闇が訪れた。 将文は、綺麗な布に包まれた神楽笛を懐に忍ばせ、屋敷を後にした。 ざっ…ざっ…と将文は、地を踏み締めながら歩く。 これからの…“逢瀬”の事を考えながら…雅の待つ屋敷へと歩く。 “もう少し…もう少しで…君に逢える…” 懐に忍ばせた笛に手を軽く当て…想いを噛み締めながら…やや力付く地面を踏み締めて歩く。 ~ 雅の屋敷 ~ 菊燈台(きくとうだい)の火が、風で少しゆらゆらと揺れている。 雅の心臓は…とくとくと早く脈打つ。 逸る気持ちを抑え切れず…部屋をうろうろと歩き回る。 “落ち着かなくては…”と… お気に入りの香(こう)を焚いた 火取香炉(ひとりこうろ)の傍へ行き、好きな桜花の香を身体で感じた。 “もう少し…もう少しであの方にお会い出来る…” 瞳をを軽く閉じ…気持ちを落ち着かせる。 将文は、屋敷の前に到着する。 気持ちを落ち着かせる為に、人呼吸し小さい戸から入る。 かさりと草の揺れる音がし、雅はハッとし御簾(みす)の方向へ目を向ける。 縁側に影が見えるが…御簾でうっすらとしか見えない。 すると…声が聞こえた。 『桜姫…』 将文の声がし、雅は御簾の傍まで寄る。 『はい…』 雅は、緊張しながら答えた。 『今宵…君に逢える事…どんなに楽しみだったか…』 将文は、緊張し少し声が震えてしまうのを必死で抑える。 その時…御簾がスッと上がった。 今まで御簾が下がっていた部屋が…月の光りが入り少し明るくなった。 雅は、正座をし声が掛かるのを暫し待つ。 『面(おもて)を上げて下さい…桜姫…』 将文の声がし、雅はゆっくりと顔を上げ…将文を見る。 暗闇と月の光りで、目がまだ慣れず軽く目を閉じてから…目を懲らす…。 月の光りをバックに…将文の顔が見えた…きりっとした二重の切れ長の目…背が高く整った顔に…優しい口元。 顔を上げた雅を見た将文は… 愛らしい目元…可愛らしい口元…桜色の着物がよく似合い…雅に魅入ってしまった。
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