~ 逢瀬 ③ ~

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“見つめるだけで…息が詰まる想い…共に過ごす時が、狂おしい位にわたくしを狂わせる…この様な想い…初めてでございます…” 月が雲に隠れ傾き始めて来た。 二人にとって…初めての逢瀬は、終幕を迎え様としている。 切なく…苦しい “終幕” 将文は、雅を抱きしめながら優しく長くて艶やかな雅の髪を撫でる。 御帳台(みちょうだい)は… 切ない位に静寂で、双方何を語ればいいか…模索していた。 でも…静寂で切ないが…双方は離れる事なく、二人だけの時を静かに…噛み締めていた。 そして、模索していた将文はゆっくりと雅の髪を撫でながら口を開いた。 『私は、君を…雅殿を決して離したりはしない…離しません。』 しっかりとした口調で、雅に伝えた。 それに答えるかの様に、雅は将文の胸に顔を埋めながら… 『わたくしも…将文様から離れたくありません…離れたりしません。何があろうと…』 ゆっくりと答える。 それを聞いた将文は、抱きしめていた手に少し力を入れ、強く抱きしめた。 甘い…痛みが身体に伝わる 二人は…少しの時もおしいと言う様に…抱きしめ合う。身体が溶け合う様な…甘くも熱く…。 暫くして、二人は身支度を整えると、縁側に座り見つめ合っていた。 月光は、傾き始めて…先程の様には明るさはなく…微かな輝きの中…二人は静かに見つめ合った。 『もう少しで、帰らなくては…』 将文は、立ち上がり雅の前に立つ。 雅は、淋しそうにまた…涙を溜め頷いた。 『雅殿…君を妻に迎えたい。明日から三日…三日夜(みかのよ)をする…良いだろうか…?』 将文が雅の手を握り言うと、雅は溜めていた涙を零し言葉にならない…嬉しい思いで“はい”と答えた。 将文も喜び、雅を抱き寄せ… 『有難う…雅殿。明日…もう今日になるか…朝に遣い後朝(きぬぎぬ)を届けさせる。』 『はい…将文様』嬉しそうに笑った。 将文は、帰っていった。 夢の様な…夜。 夢を見ていると…錯覚を覚えてしまう程…甘くて切ない夜。 三日夜…貴方様に逢える。 わたくしの…大切な貴方様。 命に変えてでも…貴方様を御守りしとうこざいます…。 “私は、君が愛おしい。苦しい胸のうちをどう伝えようか…” ※三日夜(みかのよ):女人の所へ三日間夜通うと結婚成立になる事。 ※後朝(きぬぎぬ)デートの翌朝に送る和歌付きの文。結婚を決めた男人の一世一代の和歌付きの文の事。
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