~ 朝の出来事 ~

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“貴方様との時が、刻々と過ぎてゆく…一秒一秒…愛おしくて仕方がありません…” 雅は、父の自室の戸の前に立つ。何て声を掛けたら良いか…頭の中をグルグルの色々な言葉が駆け巡る。 そうしていると、部屋の中で声がする。 『雅なのか?どうした?入りなさい。』 雅と知った父が声を掛けて来た。ハッとし、雅は“はい”と言い部屋に入る。 部屋には、父と兄が居た。 『兄様もいらっしゃっていたの?』 雅は、少し戸惑いながら問い掛けた。 『あぁ…父上は、用事があってね。』 くすりと笑い、優しく雅の問いに答える。 兄も雅同様、端正な顔立ちで女人達の憧れの的になっている。 職業は、“検非違使(けびいし)を勤め、楽の才にも秀でていて鼓(つづみ)の弾き手でもある。 『雅、どうしたのだ?』 父も優しい眼(まなこ)で、雅を見ながら問う。 『はい…あの…』雅は、何て言ったら良いのか混乱して来た。 父は、雅の慌て振りを見て可笑しくなり、くすくすと笑い始めた。兄も持っていた扇で口元を隠し笑い始めた。 雅は、何がなんだか解らなくなり…双方を見つめる。 父は、笑いながら文を懐から取り雅に見せる。 『将文殿から文を頂いた。お前への婚姻の了承を得る為の文だ』 父は優しい笑いながら言う。 雅は驚き、目を大きく見開いた。 『え…将文様から…』 『そうだ、将文殿から。』 父は、優しく雅の髪を撫でながら続けて言った。 『今宵から三日間…三日夜を許す。…幸福になりなさい。』父言う。 『で、でも…父様反対では?』 涙を溜めて、父に問う。 『雅が、幸福ならよい。将文殿は他の輩とは違う。真面目な男と聞いておる。』 父は、雅を抱きしめながら言う。 『有難う…父様…。』 小さい頃に戻った様な…温かな父様の香がする。小さい頃…の思い出が、蘇る様…。 『雅、幸福になりなさい。私も彼は知っているし、彼は真面目な男だ。』 兄は、にこりと笑い雅の髪を撫でる。 『有難う…兄様』 三人は、幸福な時を過ごした。 そこに……母様が居れば…もっと幸福で、温かい気持ちになっただろう…。 『母様も…喜んでいるかしら』 『いるさ…お前の傍に居るとも。』 何処かで…母様が大切に身につけていた“鈴”の音がした様な…。  優しい音で…シャンと…。 “幸福とは…いつまで続くのか…怖い位。幸福が…永遠に続きます様に…” ※検非違使(けびいし)今で言う、警察・検察・裁判官の事。
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