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“昔の…夢を見ました。とても懐かしい…温かくて…薄くて心地良い白粉(おしろい)の香… あれは………”
三日夜の一日目の夜…
満月の夜……二人は寄り添って時を過ごしていた。
桜花の香(か)が焚かれて、柔らかな香りが部屋中を包み込む。
雅は、将文の肩に身体を預けながら、うつらうつらと…船を漕ぎ始める。
その姿を見て、くすりと優しく笑いながら雅の身体を起こし、ゆっくりと自分の膝の上へと誘導させていく。
雅も意識は睡魔によって、朦朧としているが大人しく将文の膝の上に頭を預け…そのまま睡魔に導かれながら、意識を夢の世界へと向かった。
雅は…夢の世界で感じた事のある、温かな感覚に瞳を開ける。
心地良い…白粉の香り…優しい温かな物が自分の髪を優しく撫でる…。
“将文様…”ふと雅はそう思ったが…“違う”とすぐに解った。
“これは…母様…”
雅は、少し頭を上へ向けた。
『…あら、ちぃもう起きたのですか?』
優しく笑うその人………
“母様…”
わたくしを“ちぃ”と呼ぶのは…母様と女房の長だけ…。
『か…母様…?』
少し緊張の余り、声が少し上擦ってしまった。
『は~い。』
優しい…笑顔で雅の問い掛ける答えた。
雅は、大きな瞳に沢山の涙を溜め…また…母を呼ぶ。
『母様…』
呟いた途端、瞳からぽろぽろと雫が零れ落ちた…。
『ちぃ…。』
母も綺麗に笑みしながら、涙を流した。
雅は、起き上がり母に抱き着いた。
…温かなお日様の香りと、母の好きだった桜花の香(こう)の香り…抱き着いた雅を、優しく宥める様に背中を摩る。
『寂しい思いをさせて、ごめんね…ちぃ…。』
母は、そう言いながら優しく背中を摩る。
『いいえ…ずっと、わたくしの心の中で母様は生きておりました。…だから…』
そう言うと更に、泣き始めた。
夢の中だが…幸福な再会…
幼子(おさなご)の様に…甘えながら…雅は泣いた。
母を…今まで求めたくとも求められなかった…母に…甘える。
『母様…母様…』
そう…呟きながら…
“わたくしのただ一人の…母様…今…今の時だけでいい…母様に甘える幼子になってもいいですか…?…母様…”
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