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“母様の夢…母様はあの時のまま変わらず、わたくしを見てくれていた…温かい瞳で”
暫く、雅は母の胸に抱かれていた。この世を去ったのは、まだ雅が小さい女童(めのわらわ)の時…母の愛情が恋しく母の居ない寂しさで、夜静かに泣いた…。それを少しでも取り戻そうとするかの様に、母の胸に抱かれていた。
それを知っている様に、母も…黙って優しく微笑み雅の背中をややをあやす様に…優しく…優しく…ぽんぽんと叩いていた。
すると、母は口を開いた。
『ちぃ…母が傍におれず沢山寂しい思いをさせてしまいましたね…ごめんなさい…』
悲しげな顔をし雅に言う。雅は、顔を上げ母を見つめる。
『小さな頃は、寂しかった…でも、今も昔も変わらず…母様はわたくしの中で生きております』
雅は、また顔を埋めながら母に言った。
『有難う…貴女が優しい子に育った…母は嬉しい。』
また、雅を優しく抱きしめる。
『母様…わたくし近く嫁ぎます。とても…とてもお優しいお方です。あの方と…永久にお傍におりたいです。』
恥ずかしそうに…でも嬉しそうに話す雅を見て、母はこう言った。
『貴女の想うまま…その方にお仕えしなさい…。母は見ています。』
優しくこう呟いた。
『はい…母様。』
きゅっと母の着物を掴み言う。
『…さぁ…もう時間です。貴女は現実に戻るのです…。』
母は、雅の髪を撫でながら言った。
『まだもう少し…母様と居とうございます…』
幼子が、軽く駄々をこねる様にいやいやという仕種ををしながら雅は言う。
『あの方が待っているわ…母とはまた会えます。』
宥める様に囁いた。
『母様…』
顔を上げ瞳には、涙を浮かばせる。
『母は…貴女と共に…』
そう優しく言い、雅から離れて…段々消えてゆく。
“待って”雅は、消えゆく母の手を掴もうとするが上手くいかず手を伸ばす が、すーっと母の身体が霧の様に消え……雅の意識が途切れた。
雅は、ゆっくりと瞳を開ける。
『雅殿、大事はないですか?』
少し焦りを見せながら、将文は言う。
将文の声で、雅は現実に覚醒した。
『将文様…』
『譫言(うわごと)を言って涙を流していた…無事で良かった。』
将文は、胸を撫で下ろしながら雅を抱きしめた。
『亡くなった…母の夢を見ていました。』
“とても…懐かしい 温かな…”
何処からか…鈴の音が聞こえた…
母の大切な…鈴の音が……
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