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しゃん…しゃん…ちりん…
鈴の音が、何処からか聞こえてくる。
遠くに聞こえたり…近くで優しくなったり…。
皆(みな)にも聞こえていると思っていたが…聞こえていない。
皆に聞いても…聞こえないと言われる。
… わたくしにだけ? …
この鈴の音は、母様の物。
近くに感じているのに…どこと無く…淋しい鈴の音…。
雅は、何処かで鳴る鈴の音を探す様に自室を探す。
箱を開けたり、部屋中を探し回る。が…部屋にはない。
あの時…母様は、鈴は身につけていなかった。
でも…聞こえてくる。
… この屋敷の何処かに …
そう思い雅は、微かに聞こえてくる鈴の音を頼りに、屋敷中を探し回った。
父様の部屋にも…兄様の部屋にも…他の部屋にもない。
何処にあるの?母様の鈴…
わたくしを呼ぶ様に鳴る鈴…。
屋敷の庭に出る…。
… しゃん … しゃん …
少しずつ…確実に音は、はっきりとしていく。
雅は、庭を歩き辿り着いた場所
… 蔵 …
雅は、徐々に鮮明になってくる鈴の音に誘(いざな)われるかの様に、蔵の重い引き戸を開けた。
蔵は、埃っぽくじめついている。少々恐怖を感じながらも、鈴の音を探す。
蔵の奥に入ると、綺麗な布で包まれた小さな木箱があった。
その木箱は、大切に保管されている。
雅は、包まれた布を結び目を解き木箱を開けた。
雅は、息を飲み目を見開いた。
そこには…母の大切な鈴があった。
『これが…わたくしを呼んでいたのね…。』
鈴を手に取り見る。あれからもう何年物歳月が経っているのに…とても綺麗な鈴。
雅は、鈴を愛おしむ様に…頬に当て母を思い涙した。
鈴を大切そうに懐へしまい、雅は蔵を後にした。
『この鈴は、わたくしのお守りにします。』
自室に戻っても、一人…鈴を眺めていた。
母が近くに…母がわたくしに教えてくれた…。
とても…不思議な鈴…
雅に何を教えているのだろうか…。
雅には…まだ解らない。
明日三日夜…三日目。
明日…雅は、将文に娶られ…露顕(ところあらわし)をする。
“ 雅の人生を変える… ”
※露顕(ところあらわし)、平安時代、三日夜(みかよ)の三日目の夜、妻になる女人の家で行われる結婚披露宴の様なもの。
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