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“…誰か…お助け下さい…。将文様…父様…兄様…母様…”
雅は絹の手を繋ぎ、懸命に走る。着物が走る事に少しずつ崩れてゆく。
息を切らしながら二人は、迫り来る恐怖から逃げる。
ざっざっざっ…砂と小さい砂利を踏む音が速まる。
雅の手が震えているのを繋いでいる絹の手にも伝わる。
その時だった。
がくっと絹は、石に躓(つまず)いてしまい、きゃっと小さい声を上げ雅の手を繋いでいた手が解け転ぶ。
『絹!』
雅は、後ろを振り向き駆け寄ると絹を起こす。
手を擦りむき、赤い血が流れる。
『大丈夫!絹。』
懐に忍ばせていた小さい布を出し、絹の手に巻く。
『ちぃ様!早くお逃げ下さい!私の事は構いません。』
絹は、雅を逃がす様に必死に雅に言う。
『嫌よ!絹を置いて一人で逃げたくないわ!一緒に逃げるのよ。』
涙を流しながら雅は、絹を起こし埃を掃いまた腕を掴む。
そうこうしている内に…また…
ざっ…ざっ…ざっ…ざっ………
見えぬ物が迫ってくる。
『さぁ、早く!』
二人はまた走る。
だが…絹の足は思う様に動かす事が出来ず遅れる。
『ちぃ様…私を置いてお逃げ下さい。足手まといになります!』
絹は、青ざめながら言う。
『絹、怪我をしているのね。いいえ、置いて等いけないわ!わたくしが絹の言い付けを守らなかったから、絹をこんな目に遭わせてしまったの…だから!』
“置いてゆけないわ”と言い、安心させる様に優しく笑みした。
『ちぃ様…』
絹は泣きながら頷きまた前を向き歩き出した。
と…その時、雅の肩に手が置かれた。
雅と絹は、身体をびくつかせ恐る恐る後ろを振り向く。
『左大臣様のお嬢様の…雅様ですか?』
雅は恐怖で顔をまだ見ておらず、顔を見る為に上を向く。
『どうなさいましたか?雅様?』
上を向くと、男性が話を掛けて来ている。雅は、恐怖で思考回路が上手く作動せずに居た。
『ど…どなた様でしたか…?』
震える声で言う。
『あっ!これは失礼致しました。私は右大臣 内田清里(きよさと)の長男、内田友里(ともさと)と申します。何度か雅様にお会いしております。』
名前を頭の中で廻らせ、ふと思い出す。
『あ…思い出しましたわ。何度かお会いしたのを…』
雅は、ほっとし笑みを浮かべる。
“私の……姫……。ずっと………私の物だ………”
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