~ 迫り来る恐怖 ~

2/2

149人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
“…誰か…お助け下さい…。将文様…父様…兄様…母様…” 雅は絹の手を繋ぎ、懸命に走る。着物が走る事に少しずつ崩れてゆく。 息を切らしながら二人は、迫り来る恐怖から逃げる。 ざっざっざっ…砂と小さい砂利を踏む音が速まる。 雅の手が震えているのを繋いでいる絹の手にも伝わる。 その時だった。 がくっと絹は、石に躓(つまず)いてしまい、きゃっと小さい声を上げ雅の手を繋いでいた手が解け転ぶ。 『絹!』 雅は、後ろを振り向き駆け寄ると絹を起こす。 手を擦りむき、赤い血が流れる。 『大丈夫!絹。』 懐に忍ばせていた小さい布を出し、絹の手に巻く。 『ちぃ様!早くお逃げ下さい!私の事は構いません。』 絹は、雅を逃がす様に必死に雅に言う。 『嫌よ!絹を置いて一人で逃げたくないわ!一緒に逃げるのよ。』 涙を流しながら雅は、絹を起こし埃を掃いまた腕を掴む。 そうこうしている内に…また… ざっ…ざっ…ざっ…ざっ……… 見えぬ物が迫ってくる。 『さぁ、早く!』 二人はまた走る。 だが…絹の足は思う様に動かす事が出来ず遅れる。 『ちぃ様…私を置いてお逃げ下さい。足手まといになります!』 絹は、青ざめながら言う。 『絹、怪我をしているのね。いいえ、置いて等いけないわ!わたくしが絹の言い付けを守らなかったから、絹をこんな目に遭わせてしまったの…だから!』 “置いてゆけないわ”と言い、安心させる様に優しく笑みした。 『ちぃ様…』 絹は泣きながら頷きまた前を向き歩き出した。 と…その時、雅の肩に手が置かれた。 雅と絹は、身体をびくつかせ恐る恐る後ろを振り向く。 『左大臣様のお嬢様の…雅様ですか?』 雅は恐怖で顔をまだ見ておらず、顔を見る為に上を向く。 『どうなさいましたか?雅様?』 上を向くと、男性が話を掛けて来ている。雅は、恐怖で思考回路が上手く作動せずに居た。 『ど…どなた様でしたか…?』 震える声で言う。 『あっ!これは失礼致しました。私は右大臣 内田清里(きよさと)の長男、内田友里(ともさと)と申します。何度か雅様にお会いしております。』 名前を頭の中で廻らせ、ふと思い出す。 『あ…思い出しましたわ。何度かお会いしたのを…』 雅は、ほっとし笑みを浮かべる。 “私の……姫……。ずっと………私の物だ………”
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加