~ 第十二花 右大臣邸 ~

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“…あの恐ろしい気はなんだったのでしょう…。わたくし達を追い掛けて居たのは…。微かに…帯紐に括(くく)った鈴が鳴いている…。” 雅は、ほっと息を吐く。 『どうしたのですか…?雅様。』 友里は心配そうに聞いてくる。 『いえ…あの…誰かにつけられているかと…。』 雅は、思い出し少々青ざめながら答え、絹に心配の眼差しを送った。 『おやっ?女房殿、お怪我をなされておいでだ。雅様、私の屋敷がすぐ近くにあります。宜しければ、お怪我の御手当を…。』 友里は、にこりと笑みしながら言った。 『でも…お邪魔しては申し訳ありません、自宅にてもうすぐでございますし…。お気持ちだけ頂戴致します。』 少し躊躇しながら、雅は友里に丁寧断った 『春先とは言え、化膿してはいけない。さぁ…遠慮せず。』 友里は、軽々と絹を抱き上げる。 『降ろして下さいまし…。歩けます。』 絹は目を見開いて驚くと、暴れながら友里に言う。 『暴れると傷に障ります…解りました。降ろしますから暴れぬ様…。』 絹は地面に足を付けると、少し引きずりながらも雅の傍らに立った。 『さぁ…傷の手当てをさせて下さい。』 またにこりと笑みしながら言う。 『でも…』 雅は躊躇するが…。 『さぁ…お気になさらず。』 友里は言うと、押しに負けた雅は“はい”と答え、絹と共に友里の後に付いて行った。    ~ 内田 邸 ~ 女房と友里に、案内され部屋に通される。 縁側に女房が、桶と手ぬぐいらしい物を持ってきて、絹の傷を洗うと言い絹を縁側へ連れていった。 雅は、座に座らせて貰い様子を見る。 …また、微かに…鈴が震える。 雅は、何故だか不思議な気持ちと不安な気持ちで、鈴を見る。 『どうなさいましたか?雅様。』 急に声を掛けられ、びくっと身体を震わせながら後ろに立つ友里を見上げた。 友里は、笑顔を崩さず…こちらを見ていた。 『いえ…。ご迷惑を御掛けし申し訳ありませんでした。』 雅は身体を友里に向け、頭を下げながら言う。 『お気になさらず。私のお節介の虫が騒いだだけです。』 また…笑顔を崩さず言う。その綺麗な笑顔に少し…背筋に悪寒が走るが気にせず、雅もにこりと優しく笑った。 鈴が…また…………小さく…… ちりり…ちりり…と…震えた。
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