149人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
“…あの恐ろしい気はなんだったのでしょう…。わたくし達を追い掛けて居たのは…。微かに…帯紐に括(くく)った鈴が鳴いている…。”
雅は、ほっと息を吐く。
『どうしたのですか…?雅様。』
友里は心配そうに聞いてくる。
『いえ…あの…誰かにつけられているかと…。』
雅は、思い出し少々青ざめながら答え、絹に心配の眼差しを送った。
『おやっ?女房殿、お怪我をなされておいでだ。雅様、私の屋敷がすぐ近くにあります。宜しければ、お怪我の御手当を…。』
友里は、にこりと笑みしながら言った。
『でも…お邪魔しては申し訳ありません、自宅にてもうすぐでございますし…。お気持ちだけ頂戴致します。』
少し躊躇しながら、雅は友里に丁寧断った
『春先とは言え、化膿してはいけない。さぁ…遠慮せず。』
友里は、軽々と絹を抱き上げる。
『降ろして下さいまし…。歩けます。』
絹は目を見開いて驚くと、暴れながら友里に言う。
『暴れると傷に障ります…解りました。降ろしますから暴れぬ様…。』
絹は地面に足を付けると、少し引きずりながらも雅の傍らに立った。
『さぁ…傷の手当てをさせて下さい。』
またにこりと笑みしながら言う。
『でも…』
雅は躊躇するが…。
『さぁ…お気になさらず。』
友里は言うと、押しに負けた雅は“はい”と答え、絹と共に友里の後に付いて行った。
~ 内田 邸 ~
女房と友里に、案内され部屋に通される。
縁側に女房が、桶と手ぬぐいらしい物を持ってきて、絹の傷を洗うと言い絹を縁側へ連れていった。
雅は、座に座らせて貰い様子を見る。
…また、微かに…鈴が震える。
雅は、何故だか不思議な気持ちと不安な気持ちで、鈴を見る。
『どうなさいましたか?雅様。』
急に声を掛けられ、びくっと身体を震わせながら後ろに立つ友里を見上げた。
友里は、笑顔を崩さず…こちらを見ていた。
『いえ…。ご迷惑を御掛けし申し訳ありませんでした。』
雅は身体を友里に向け、頭を下げながら言う。
『お気になさらず。私のお節介の虫が騒いだだけです。』
また…笑顔を崩さず言う。その綺麗な笑顔に少し…背筋に悪寒が走るが気にせず、雅もにこりと優しく笑った。
鈴が…また…………小さく……
ちりり…ちりり…と…震えた。
最初のコメントを投稿しよう!