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“鈴が…震える。この身体中を襲う嫌な悪寒…何…?”
暫くし、他の女房がお茶を持ってきてくれ、雅に御祝を言った。
雅は頬を桜色に染め“有難う”と幸福そうに答えた。
その時…友里の顔が一瞬………
“ 歪んだ ”
雅はその事に気付かず、女房と話をしていた。
『お羨ましいですわ、ご立派な男性を旦那様になされるなんて。』
と女房は羨ましそうに言う。
『わたくしには勿体ない方です。』
恥ずかしげに雅は女房に言う。
雅と女房が話に夢中になっていると、持っていた扇子で女房に言う。
『姫様を疲れさせてはいけないよ。』
友里は、少々苛々しながら扇子で片方の掌をぱちぱちと叩く様な仕草をした。
女房は、いつもと違う友里の目付きと仕草に、少し恐怖感と戸惑いを感じ、“申し訳ありません”と言い頭を下げた。
その女房の慌て振りと青ざめた顔を見て、雅は友里にこう言う。
『友里様、わたくしは疲れてはおりません。お叱りにならないで下さい。』
と頭を下げた。
『雅様は、何も悪く等ございません!この女房が話に夢中になり過ぎましたので…。』
そう言うと女房を鋭い目付きで睨む。
女房は、怖くなり深々と頭を下げ部屋を後にした。それを目で追うと、縁側で傷の手当てを終えた絹の姿が目に入った。
『友里様、わたくし達もそろそろおいとまさせて頂きます。』
とにこりと笑みし友里に言う。
『まだ、宜しいではありませぬか雅様。』
友里は引き止める。だが雅は、“いいえ長居はご迷惑に”と言うと、また少し怪訝そうに眉を寄せる。その顔付き等で少々違和感を感じた。
ちりり…ちりり…また鈴が鳴る。
『お気持ちだけ、有り難く頂戴致します。本日はご迷惑をお掛け致しました。』
と言う頭を下げ立ち上がり、絹の方へゆっくりと歩き始めた。
その態度にまた眉を寄せた。
『雅様、祝言をあげられるのですか?』
突然後ろで友里が言う。雅は、振り向き幸福そうに微笑み“はい”と答えた。
友里は、怪訝そうに雅を見ると
『簡単に決めるのですか?』
と言った。雅は困った顔をするがまた優しく微笑むと……
『あの方しか、わたくしにはおりません。』
と答え、“失礼致しました”と言い絹と共に部屋を後にした。
雅の去った部屋に友里一人…友里は、きりきりと歯を食いしばり綺麗な顔を…歪ませた。
身体は震えながら、持っていた扇子を折ると投げ付けた。
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