149人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
“口惜しや…私の物を盗む等…許さぬ………許さぬぞ……”
雅が立ち去った部屋は、友里のただならぬ“黒い気”が立ち込めていた。
折り投げ付けた高貴な扇子は、無惨な姿で畳みに転がっている。
下を向き、わなわなと肩を震わせ…ぶつぶつと呟いている。
『…許さぬ…許さぬぞ………』
妬ましい…口惜しい…恨めしい
そう…ぶつぶつと…呟く。
怨みの念が、部屋を漂い周囲の空気をどす黒い影を落としてゆく……。
昔から…好いていた…我が姫…
初めて目にした時…あれは、私が元服した次の年…。姫は私の一つ下。
父上に連れられ訪れた屋敷に…
“ 貴女様がいた ”
凄い衝撃に襲われた。
あの眼に吸い込まれる様な感覚愛らしく笑う仕種…。
あの時から、私の身も心も貴女に囚われた。
他の女人など…目に入らない。
他の女人など…いらない。
文や贈り物をしても…貴女様は見てはくれなかった。
友里の想いは、自分の心や身体から溢れ出し…止まらない。
苦しい…辛い…嬉しい…痛い…
そういう想いは…とうに超えた。
自分の物…いや……“我が物”
誰にも渡さない…。
そう……“自己愛”に変わった
でも、己が気付く術はもうないのだ…。友里の心は…とうの昔に…理性すら破壊されたのだ。
己の欲・己の愛情の重さで……
目の前さえ、もう見えない程のどす黒い影を落としたのだ。
人の想いとは様々な物で………
湯の様に熱するのが早く、冷めるのは時間の問題…。
想いを長く持続させる人間も居る。
様々な想いがある…。
友里は、人に気付かれず…己自身の愛情が膨れ過ぎて、黒い想いに変わった…“自己愛”だ。
下を向き肩を震わせ、ぶつぶつと呟いていた友里は、
『ふっ…くっくっくっく…はっはっはっはっはっ……!』
と、最初は鼻で笑い喉の奥で笑うと…段々狂ったかの様に笑い始めた。
『ふっふっふっ………』
前髪をくしゃりと片手で掴み、狂いながら笑う。
“ 心が完全に崩壊した ”
友里は、笑いながら考える……
“ どうやって壊そうか ”
と………
※元服:昔15歳が成人と見なされ15歳の年になると、成人式の様な儀式をした。
最初のコメントを投稿しよう!