~ 第十三花 狂う心 ~

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“口惜しや…私の物を盗む等…許さぬ………許さぬぞ……” 雅が立ち去った部屋は、友里のただならぬ“黒い気”が立ち込めていた。 折り投げ付けた高貴な扇子は、無惨な姿で畳みに転がっている。 下を向き、わなわなと肩を震わせ…ぶつぶつと呟いている。 『…許さぬ…許さぬぞ………』 妬ましい…口惜しい…恨めしい そう…ぶつぶつと…呟く。 怨みの念が、部屋を漂い周囲の空気をどす黒い影を落としてゆく……。 昔から…好いていた…我が姫… 初めて目にした時…あれは、私が元服した次の年…。姫は私の一つ下。 父上に連れられ訪れた屋敷に…   “ 貴女様がいた ”    凄い衝撃に襲われた。 あの眼に吸い込まれる様な感覚愛らしく笑う仕種…。 あの時から、私の身も心も貴女に囚われた。 他の女人など…目に入らない。 他の女人など…いらない。   文や贈り物をしても…貴女様は見てはくれなかった。 友里の想いは、自分の心や身体から溢れ出し…止まらない。 苦しい…辛い…嬉しい…痛い… そういう想いは…とうに超えた。 自分の物…いや……“我が物” 誰にも渡さない…。 そう……“自己愛”に変わった でも、己が気付く術はもうないのだ…。友里の心は…とうの昔に…理性すら破壊されたのだ。 己の欲・己の愛情の重さで…… 目の前さえ、もう見えない程のどす黒い影を落としたのだ。 人の想いとは様々な物で……… 湯の様に熱するのが早く、冷めるのは時間の問題…。 想いを長く持続させる人間も居る。 様々な想いがある…。 友里は、人に気付かれず…己自身の愛情が膨れ過ぎて、黒い想いに変わった…“自己愛”だ。 下を向き肩を震わせ、ぶつぶつと呟いていた友里は、 『ふっ…くっくっくっく…はっはっはっはっはっ……!』 と、最初は鼻で笑い喉の奥で笑うと…段々狂ったかの様に笑い始めた。 『ふっふっふっ………』 前髪をくしゃりと片手で掴み、狂いながら笑う。  “ 心が完全に崩壊した ” 友里は、笑いながら考える……  “ どうやって壊そうか ” と……… ※元服:昔15歳が成人と見なされ15歳の年になると、成人式の様な儀式をした。
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