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“…私は 狂った…。私の何もかもを狂わせた…男が憎い…憎らしや…”
友里は、妖しく笑みすると…少し暮れ始めた外を部屋から見る。
“ どうやって…壊そうか… ”
友里は、独りまた何かを思いながら喉の奥で笑う。
“ 幸福になどさせぬ…。幸福を手に入れるのは…我だ。 ”
その様子を…見てしまった者が居る。先程、雅の結婚を羨ましいと言った女房だった。
女房は、余りの恐怖に身体中が震えてしまい、その場から動けない。
友里からは隠れて居るが身体が、蛇(じゃ)に睨まれた蛙(かわず)の様に、硬直してしまい動けないのだ。
涙と冷や汗が流れ、恐怖で動かない足を懸命に動かした時…
ぎぎっ…と音を立ててしまった。
『…!!』
声を出してはいけないと思い、女房は口を塞いだ。
『……誰か居るのかい?』
低い声が聞こえる。
女房は、その場から逃げようとしたが、時既に遅し…………
背後で気配を感じた。
びくっと身体が震え、恐る恐る後ろを振り向いた…。
とても…恐ろしく…傾き始めた太陽の朱色と、友里が立っている場所で少し影を落とした友里の顔が……恐ろしい怨霊に憑依(ひょうい)されたかの様に…恐ろしい目付きと…妖艶に笑う顔だった。
『ひぃ…!』
声にならない悲鳴を上げた女房の口を塞ぎ、部屋の奥へと連れて行った。
部屋の奥へと連れて来られた女房は、余りの恐怖にがたがた身体を震わせ、泣きながら許しを請う。
友里は、くくっとまた喉の奥で笑うと………
『悪いね…覗きかい?お前もいい趣味をしている……』
怒りと嘲笑うかの様に笑みを浮かべる。
『お…お助けを……』
女房は鳴咽する。
友里は、片方の口元を上げ女房を後ろ抱きにし耳元で囁いた。
『…黄泉の世界で…許しを請うがいい…』
と、くすりと笑いながら囁くと同時に、小刀(しょうとう)を女房の心の臓めがけ刺した。
『ぐはっ…!』
女房は、目を見開き涙を流しながら断末魔の叫びを発し果てた。刺した小刀を抜くと、後ろ抱きしていた腕(かいな)を離す。離した腕から、ずるりと女房は畳みに倒れた。
友里は……また妖しく笑う。
『ふっふっふっ…はっはっはっはっ…可哀相に…』
言葉を吐き捨てると、女房の骸(むくろ)に向かって
『おやおや…大切な着物が台なしだ…』
と言うと、小刀を見つめ妖艶に血を舐めた…
……人を狂わせる想い…………
それは………恋という…………
“ 魔物の様な物………… ”
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