~ 第十四花 因縁 ① ~

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“あの男との因縁は昔から。 何故私の邪魔ばかりをするのだ…。 天野 将文よ…”     友里は、新しい着物に着替えると、女房の骸(むくろ)と血で汚れた自身の着物を、今は余り使われていない蔵に、誰にも見つからぬ様奥に始末した。 “ふっ…”と溜息を付くと蔵を後にした。見上げた空は、太陽が傾き始め昼間より、少し風が吹き庭の木々の葉が、ざわざわと騒いだ。 友里は屋敷を出ると、自身の仕事場の内裏(だいり)へと向かった。     ……内裏には あの男が居る……  内裏に着き向かったのは、自身の仕事場雅楽寮(うたのりょう)…雅楽寮は、将文も所属している。 渡り廊下を歩き、雅楽寮の近くに着いた時部屋から声がした。   『天野殿、羨ましい限りです。あの左大臣様の桜姫を妻に迎えるとは。』   将文の二つ下の位の男が、羨ましそうに言う。   『私には、勿体ない位の方だよ。とても…大切な方だ。』   将文は、余り見せない優しげな笑顔を見せ男に言う。 男は、今まで将文の厳しく真面目な一面しか見ていなかったので、驚いた表情をしたが笑い   『お幸せそうで何よりです。』   と言った。 将文は、照れながら“有難う”と書類を片付けながら言った。  その会話を耳にした友里は、また怒りと怨みを募らせた。 一呼吸置くと、部屋に入る。   『おや…天野殿おいででしたか。』 平然を装い友里は、将文に言う。 『これは、内田殿…どうしたのですか?』   将文も、それに答える様に友里に言う。   『自分の雅楽笛を忘れてしまってね。取りに来たのだよ。』   と言い、自分の席に向かい机の上に置いてある、綺麗な布に包まれた雅楽笛を手に取る。   『今宵、露顕(ところのあらわし)だそうだね。……めでたい。』  心にもない言葉を、綺麗な笑顔で将文に言う。   『有難うございます。』   にこりと笑いながら将文が言う。 『…姫の関係者として父上とお祝いさせて頂くよ…。』   『そうでしたか…。有難うございます。』   と将文は頭を下げた。 …今まで余り見せた事のない…幸福そうな笑顔…。 それがまた…怨みを募らせる。 友里は、笛を持ち立ち上がると…“では…また夜に…”と言い、雅楽寮を後にした。 部屋を後にし歩き出した友里は…爪をかりりと噛んだ。   あの男が…存在が…私の邪魔をする          ……昔から……    …あの時から…
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