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『そうか…よい。右大臣の子息聴かせてみよ。』
帝は笑いながら、友里に言った。
友里は笑みを浮かべると一礼をし、雅楽笛を口元にあて吹き始めた。
友里の笛の音(ね)は、今で言うところの“譜面通り”と言っても良いだろう。正しく狂いのない音色だ。
周囲の人間は、軽く頷いたり上手いと言う言葉を口々に言っていた。
雅は、雅の父親も音色を楽しんだ。
終わると…周囲の人間は、拍手をし始めた。
『良い音色だった。さて…天野の子息…我に笛の音色を聴くせてくれ。』
友里に笑いながら言うと、すぐに将文の顔を見て言う。
『…はい。』
将文は、一礼をし立ち上がった。
立ち上がったが、少々考え込む。
周囲はざわざわしていると、友里がすかさず帝に言う。
『臆病者には吹けぬ様子にございます。』
くすりと笑いながら言うと、周囲の人間も馬鹿にした様な感じで笑う。
『そうでございます。帝、うちの息子の音に敵う者はおりませぬ、臆病者風に吹かれた輩には無理でございましょう…。』
わははっと高笑いをし、友里の父が言う。その言葉に一理あると言うかの様に、周囲も口々に言う。
『皆(みな)の者よさぬか…言葉を慎め!』
と帝が喝を入れる。
帝な喝に、友里や友里の父親・周囲の人間は、びくりと身体を震わせるといそいそと一礼し立て膝で座る。
将文の父親は、心配そうにするが冷静に事を見守る。
そうした後、将文は意を決し笛を口元にあて、目を閉じ音を奏で始めた。
旋律が響き始めた途端…周りがざわっとした。
“あの音は何だ…”“聴いた事がない…”そう小声で騒ぐ。
友里は、くすくすと見下した様に扇子で口元を隠しながら笑う。
『…………。』
帝は、目を閉じながら耳を澄ます。
雅や雅の父親も同じ様に、周囲の雑音を封じるかの様に…耳を閉じ、その音を聴いた。
春風が…将文の音に誘われる様に…音と共に…舞うかの様に…庭に咲いている桜花の花びらと共に…舞う。
さらさら…ひらひら…さらり…
さらり…ひらり…ふわり………
風と共に踊り出した、桜花は鳥の羽根の様に…ふわり…ひらり…さらり…と舞って、地面へと落ちた。
ふわり…さらり…ひらり…
笛の音が止み、将文は笛を口元から静かに外し瞳を開け、軽く息を付いた。
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