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笛の音が止むと、周囲は静まり返った。
皆…ぼーっと、その場に立ちすくみ静まり返った中で、息を飲む音が聞こえる位だった。
将文はどうしたらよいか解らず、さっと立て膝をし帝に頭を下げた。
『申し訳ありません。ご無礼をお許し下さい。』
頭を下げながら無礼を謝罪した。
そうしていると、帝は笑いながら将文に言う。
『何を言(ゆ)うておる。素晴らしき音色だった!流石、天野の子息だ!』
そう言うと帝は、扇子を広げながら笑う。
将文は何がなんだか解らずに居る。
そうしていると、横に居た友里は固く拳を握りしめ、身体をふるふると、怒りに震わせていた。
『何故です!帝!あの様な音が素晴らしい等…』
怒りに声も震えながら、帝に物を申した。
周囲は、またざわざわと騒ぎ始めた。中で位が高い者が、“言葉を慎みなさい”と言うが、友里は黙っている事が出来ない。
『お教え下さい!帝』
すると帝が、暫くすると溜息をつきながら友里を見て口を開いた。
『何故が知りたいか?』
『はい。』
『それはな…天野の子息の笛の音には…“心”があったのだ。』
帝の言葉に、友里は困惑する。
『…こ、心…?』
『其方の笛には、心がない。ただ正しく奏でるだけだ。だが、天野の子息の笛には、心があった。心がこもった旋律だ。解ったか?』
帝は、そういうと友里を見た。
『何故だ…何故です!私は教え通り奏でただけです!何故この様な輩(やから)の音が良いと!』
身体を震わせながら、友里を指差し帝に訴えた。
『まだ解らぬか!雅楽とは音を心から楽しむ物。雅楽は形に囚われたら心では楽しめぬ。心で感じなければ、ただの“音(おと)”でしかない。』
その帝の言葉に、友里の心と頭は何か鈍器の様な物で殴られた様な衝撃と絶望感に苛まれた。
『やっと解ったか?其方の音には、心が響かないのだ。自分の腕に自信があると言う過剰な想いが、笛の音を壊しておる。だから響かないのだ。』
開いていた扇子を畳み、友里に指差す様に指しながら言う。
愕然とする友里は、庭に敷き詰めた砂利の上に、力が抜け足から崩れ四つん這いの形になった。
友里の父親は、慌てて友里に駆け寄った。
そのやり取りを見ていた人々は、口元を扇子で隠しながらひそひそと小声で話している。
将文は、その光景を少し見ると申し訳ない気持ちで、目を反らした。
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