~ 癒しの笛の音 ~

2/2
前へ
/180ページ
次へ
“…許さぬ…許さぬぞ…私をコケにした人々…私から何もかも奪い去る…天野…将文………” 申し訳なさと居心地悪さで、将文は帝に一礼をすると、宴の会場を後にした。将文の父親も、静かに一礼をすると、立ち去った。 将文が去ったのを、周囲は目で追う。 四つん這いに身体を崩した友里は、身体をがたがたと震え歯を食いしばりながら泣いた。 “ どうして…どうしてだ…!”心でそう呟きながら、時たま唸る様に泣く。 『おぁ…友里よ。』 友里の父は、友里を宥める様に背中を摩る。 その父親の哀れんだ姿がしゃくに障り友里は    “ ぅわぁ~~ ” と叫び声を上げ身体を起こし、父親を押し退け走り去った。 ざっざっざっ…砂利を踏み締めながら走る。 『友里っ!!』 押し退けられ、尻餅を付いた父親は叫び慌てて立ち上がり、御簾の奥の帝に頭を下げると、また友里の名を叫びながら、そそくさと走り去った。 周囲は更に、ざわざわと騒ぎ始めた。 面白可笑しく、くすくすと笑う者…ひそひそとできないを小声で話をする者…ぶつぶつと怒る者… 収拾がつかなくなっていた。 その時である……。 何処からか…綺麗な笛の音が流れて来た。   綺麗で…何とも優しい音色… 桜花の甘美(かんび)な香がする様な…甘く可愛らしい旋律…。   周囲の者は、一瞬にして騒ぐのを辞め…その旋律を楽しむ。 何て…優しい…安らぐのだろう。 人々はきょろきょろと周囲を見回すと、雅が自分の笛を吹いていた。 また…心地よい風が吹くと、雅の周りに桜花の花が舞い雅を柔らかく包み込む。    春風が…さわさわ   桜花が…ひらひらり 雅と雅の吹く笛の音色に合わせるかの様に…。 皆(みな)雅の美しさと、笛の音の美しさに魅了される。 帝は御簾の奥で、笛の音と雅の可愛らしさに見惚れた。 笛の音が止むと…少し静寂の後人々から歓声が起こった。 拍手をし嬉しそうに口々に、素晴らしいと声を上げた。 雅は、恐縮し頭を下げた。 『素晴らしき音色であった。左大臣の姫よ…見事!』 帝も嬉しそうに、ご満悦の表情で雅に言う。 『滅相もございません。でしゃばった形になり…申し訳ありません。』 雅は、砂利の上に正座をし頭を下げた。 『面を上げられよ。姫、其方が居なければ場は、収拾がつかなくなっていた。有り難い…さぁ宴を再開しようぞ。』 帝の言葉にまた深々と頭を下げ、周囲の人々も宴を再開した。      
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加