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“ 君なしでは 考えられない… 君の居ない世界等考えた事がない ”
烏(からす)が山へと飛びながら、かぁかぁと鳴く。
京の都の市も、段々人々の群れは少しずつ少なくなり、市の亭主達は店じまいをし始める。
都を赤々と茜色に染めてゆき、木々の葉をきらきらと輝かせている。
雅は … 将文に見初められ今宵妻となる。
不安は…ないとは言えないが、永久に将文に付いてゆくと決めた…。
不安も期待も嬉しさも…胸に詰まっているが…将文が傍らに居てくれるだけで、幸福だと心底思った。
雅は自室を出ると、父親と兄が居る部屋へ向かった。
部屋の前に着き、雅はゆっくりと深く深呼吸をすると、声を掛ける。
『父様…兄様おりますか?』
『あぁ…お入り。』
と兄の声がした。
雅はもう一度深呼吸をして、襖を開けた。
二人はにこりと笑みし、雅を迎える。
『お座りなさい。』
兄が優しく微笑みながら言う。
緊張した面持ちをし、座れずに居るともう一度兄が優しく促した。
心の臓が今までにない位、どきりどきりとした。
でも雅は二人を見、正座を直すと意を決し口を開いた。
『父様兄様…今宵、天野将文様の元へ嫁ぎます。…今までお世話になりました…。どうか身体にお気を付けて…』
二人に言いながら…大きな瞳から涙が溢れ…ほろほろと畳みや着物に雫が落ちた。
父も涙ぐみながら雅を見て
『お前は、いつまでも私の可愛い娘だ…何かあれば頼りなさい。』
と言った。
兄も優しい微笑みを浮かべながら
『そうだよ。雅はいつまでも私や父様の大切な宝…幸福に…』
と髪を撫でながら言う。
その二人の言葉を聞き、また涙した。
将文は内裏からの帰り道、父親が眠る墓に向かった。
小高い丘に墓はあり、将文は墓前に行き瞳を閉じ父親に報告をした。
“ 愛おしい方と添い遂げます…どうか…安心なさって下さい”
暫く瞳を閉じて祈ると、ゆっくり開け丘からの景色を眺める。
夕日の茜色の上には、藍色がかかり星が輝き始めていた。
ふと藍色の空を見上げると…将文は目を見開いた。
それは …人間の血液に似た …
“ 赤月 ”
薄い深紅の月は …何かを伝え様としている…そんな気がした。
将文は …嫌な胸騒ぎを覚える。
息が苦しい…嫌な感覚…
“ … 赤月は 何を 語るのか …何かが起きると言う…赤月…
血の様な………月 ”
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