~ 第二花 月夜の笛音 ~

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ある日の夜……… 雅は、寝付けずにいた。 身体を起こし、少しボーッと部屋を見渡す。 御帳台(※①みょうだい)から起き、ゆっくりと月の見える御簾(※②みす)が掛かる場所へと行き、腰を下ろす。 御簾の隙間から見える月は、雲が少し掛かり神秘的な光りが、京の都を照らしている。 その月に向かって、おもむろに母の形見の神楽笛を唇に宛がうと、静かに吹き始めた。 月夜の晩に…神秘的に降り注ぐ月の光りと神楽笛のやや低い音は、優しく…何処か淋しく…儚く奏でられた。 暫く吹いていると…ふと…他の音が交じってきた。 雅は、笛を止めず耳を澄ましながら…他の音を聴く。 その笛の音は、高麗笛(※③こまぶえ)だった。 優しく神楽笛より少し高音の音色で…心に響き渡っていく。 暫く…二つの音が…交じり合い綺麗な音を響かせた。 雅は、笛の音を止めた。 屋敷の塀を隔てた高麗笛の主も自分の音を止めた。 そして…高麗笛の主の声がした。 『夜分遅くに申し訳ありません…とても神秘的な月に誘われ…とても綺麗な音を耳にし…共に奏でたいと思いました。』 とても、優しく…でも男らしさの伝わる声だった。 『…いいえ…私も寝付けずとても神秘的な月に誘われ…笛を手にし奏でて居ましたら…心地よい高音の高麗笛の音が耳に入り、共に奏でました。』 雅は、少々遠慮がちに言葉にした。 『あの…』男は、口にした。一度止めたが、意を決して言葉にする。 『あの…またこの様な月の夜に…共に奏でて頂けませぬか?』 男は、優しく問い掛ける。 雅は、少し考え『はい』と短く答えた。 『有り難い…では…』男は、そう言い去っていった。 砂を擦る音がし、男が去るのが解ったが名を聞く事を忘れ、雅は小さく『あ…』と発したが、音が遠くに聞こえ声を喉で止めた。 あの方は一体……どなた様かしら… とても…優しく澄んだ笛の音…   …今宵の月の様な…    ~ 月夜の方 ~              ※①御帳台(平安時代の寝具・今で言うベッド。綺麗な布が天井から下がっている) ※②御簾(部屋の仕切りに使われたり外から見えない様に垂れ下がっている綺麗な布地。平安時代女人の部屋に掛けられ顔等隠す様に使われた) ※③高麗笛(神楽笛よりやや短く細い高音の音が出る雅楽に使われる笛)
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