~ 第二十花 鵺の鳴く夜 ~

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“ 花散らし 桜舞い散る 赤月の  山に哀しく 鵺の鳴く声 ”       雅の屋敷に咲く満開の桜花は、春特有の花散らしの嵐が吹き荒れ、桜花の花は…ひらり…はらり…と花の雨が降る様に散る。 雅は少し悲しげな顔をし、その散りゆく桜花の花を見つめていた。 花の命は…短命で、人々を楽しませ癒し蝶々や昆虫達に、自分の花蜜を運ばせ小さき生物の命を潤す。     …哀しく 儚く散る …   雅は少し溜息をつくと、座に座る。 それを見ていた女房の絹は、少し不安げに雅に近付くと…   『ちぃ様…如何なされましたか?今宵幸福な宴がありますのに…溜息をつかれて。』 不安そうに心配そうに、絹は雅の目線に合わせ雅に問い掛ける。 『何だか…とても桜達が悲しげに…儚げに見えたの。昼間は風など強くなかったし…』 絹の問いかけに雅は悲しそうに答えた。 絹は庭にどっしりと根を下ろす桜花を見つめた。 桜花は春嵐に吹かれ…はらり…ひらり…さらさら…と散り急ぐ様に地面に散る。 桜花の枝は、風に煽られ少し傾きながら揺れる。   『でも…ちぃ様今宵はちぃ様の良き日…悲しげなお顔は似合いませぬよ?さぁ…笑顔に。ちぃ様の愛らしい笑顔をお見せ下さい』   優しくにこりと絹は笑った。   『絹…有難う』 絹の優しい笑顔に心が温かくなり、雅はにこりと笑った。 『それでこそ、我が姫様です。さぁ…お支度致しましょう!お立ちになって下さい。』 そう言い雅を立たせると、単衣を着せてゆく。綺麗な刺繍が施された単衣に袖を通す。 化粧は薄く白粉(おしろい)と、唇にほんのり紅を引く。 幼さを残した雅だが、大人な女性に変わっていく。   その時… ギャァ……   奇妙な鳥の鳴き声に似た声が都に響き渡る。 それを耳にした雅は、はっとした。      “ 鵺(ぬえ) ”   北山からだろうか…哀しく何度も、鵺が鳴く。 今宵の満月は…赤月…… それに導かれたかの様に、哀しく鳴き続ける鵺の声…。 雅は胸が詰まる様な感覚に捕われた。   “この胸のざわつきは…何? ”  哀しく鳴く鵺は…何を知らせるのか…。       “ 哀しい鳴き声が…胸に響く…鵺…貴方は何を知らせているの…?また…鈴が鳴る…… ”     ※鵺:鳥の名。とらつぐみの異称。山林にすみ、春から夏にかけて夜鳴く。声は悲しげで、不吉なものとされた。想像上の怪獣。頭は猿・体はたぬき・尾は蛇・手足は虎の形をしている鳴く声が鳥に似ているとされる。
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