~ 第二十一花 月夜の鬼人 ~

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“ 哀しき声で…鵺が鳴く…不吉な声を響かせて…。血を欲した鬼人は…女房を見て口の端を吊り上げ笑う… ”         ゆっくり…ゆっくり… 友里は逃げ惑う女房を追い詰める。 妖しき笑い声を屋敷に響かせ、追い掛ける 女房は泣きながら、懸命に走り逃げる。 はぁはぁと息切れをさせながら…涙を流し誰かに助けを求める。 『…はぁ…助け…て…お…助けを……』 泣き叫びながら…逃げる。 でも後ろから、妖しき笑い声が聞こえ足跡も近付く。 女房は台所に隠れた。   どうして…見てしまったのだろう…。 今宵の左大臣様の姫様の婚儀の為用意した冠をお持ちしただけなのに… あの時…話を聞かなければ…襖から覗かなければ…。 あのまがまがしい黒い物が、若旦那様の中から出て来た…。 悍ましい声を発し…“血が欲しい”と… 私は…殺されてしまう。      誰か 助けて ……   その時………!   がたんと足が桶に当たり、音を立ててしまった。 女房は“ひぃッ!”と声を上げ口を手で押さえた時、向こうから足跡が聞こえた。   ざぁ…ざぁ…ざぁ…   『こコニ…居タのデすね…。』   くすりと片方の口の端を上げ、笑いながら言う。 でもその声は…今までの友里の声ではなかった。何かと声が混じり変な声が聞こえた。 女房は後退りをして、台所から逃げる。 逃げ惑う女房を…はっはっはっと高笑いをしながら眺める。   サァ……逃ゲ惑え……小サキ動物の様ニ…愉快ナ姿を見せテ…   女房は広い庭に出て来た。 他の女房や主も庭に出て、逃げ惑う女房を助けようとする。 そこに……友里も来た。 妖しく顔を歪ませながら…。   『モウ…逃げラレませンヨ…』   その変わり果てた姿の息子に、がくっと身体を崩し主は落胆する。 『……友里………』   がっくりと庭の玉砂利に身体を崩し…涙を流す。             “ 誰か…………助けて…… ”
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