~ 第二十三花 若き陰陽師 ~

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“ …ワタシ達ヲ…見ツケテ。早ク…楽ニナリタイ…オ願イ… ”          女房が急ぎ足で屋敷に戻る。 嫌な胸騒ぎは、胸が苦しくなる。この女房には、少々他の人間とは違う感覚がある。 それもあってか、胸騒ぎと息苦しさが段々強まっていく。 その時だった………。   横を通り過ぎ様としていた人物に目をやる。 あの方は…陰陽寮賀茂忠行様の御弟子様…。 女房が見た人物は、後(のち)平安でも有名になる、賀茂忠行の愛弟子陰陽師 安倍晴明だった。 女房が駆け寄ると、晴明は不思議そうに何かを感じた。   『…其方…他の人間とは違う感覚を持っている…。何かあったのか?』 晴明はじっと女房を見ながら聞く。 女房は青ざめた顔をしながら、晴明を見て説明をしようとした。 その時…屋敷の方向から、友里がやってくる。 その姿を見た女房は、びくりと身体を震わせた。 友里は女房に気付くと、優しげに微笑み近付いてくる。   『どうしたんだい…?百合ではないか。』 と友里が言う。女房はその声を聞くとまたびくりと身体を震わせた。それを感じたのか…友里の纏う悪影(あくえい)を察知し、女房を己の影に隠した。 友里は、怪訝そうな顔をし晴明を見る。 『これはこれは…賀茂忠行様のお付きの…。私の女房に何か?』 妖しげに笑みを浮かべ晴明を睨む様に見る。晴明は動じず、口を開いた。 『彼女は、私の知り合いでね…。』 晴明は淡々とした口ぶりで答えた。その冷静さに眉を寄せながら友里は女房を睨む。 女房は怖くてがたがと震えながら、晴明の着物をぎゅっと握る。 『これから何処においでで?』 と友里は晴明に聞いた。 晴明は友里の目をじっと見ると… 『えぇ…左大臣殿に呼ばれて、師匠と婚儀に…。』 と言うと、友里は眉を上げた。 その仕種に晴明は何かがあると感じ、女房を連れ歩き出した。   歩き去る晴明と女房を睨むと、体内に居る修羅の声がしてきた。 “ムム…陰陽師カ……下手ナ事ヲシナケレバ…ヨイガ… ” その声に、友里は妖しく笑うと… 『まだ…下っ端の陰陽師だ…力等なかろう…。』 と言い、またゆっくりと歩き始める。           “ 凶々しい気が…あの男を包む…強き怨念があの男を支配してゆく…何かある… ”
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