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本棚に追加 拠点としている山小屋から一歩外に出ると、眼前には一面の銀世界が広がっていた。
戸口の脇に置かれた自然石に前脚をトンっと乗せ、少し高くした視点から、バリィ04は仕事場を眺める。
見上げれば、雲一つない蒼穹。
見慣れたマッターホルンの頂が空をまっすぐに貫いている。山裾に針葉樹の先端らしき深緑が所々にチラついていた。
アルプスに雪融けの気配があった。
前回の活動でバッテリーの九割を使い果たしていたバリィ04がスリープに入る直前、山小屋の外では激しい雪嵐が吹き荒れていた。
分厚い雲が去り、日が射したことで山間の太陽光発電施設が稼働したのだろう。この山小屋にも電力が供給されたようだった。
尻尾の端子を充電設備にしっかりと繋いでいた甲斐もあって、稼働に必要なエネルギーは充分にチャージされていた。業務遂行の準備は整っている。
景気づけに、ばうっ、と一つ吠え、バリィ04は雪原に脚を踏み出した。ふかふかの雪に肉球が沈みこむ。だが、これくらいなら進むことは造作ない。
バリィ04はプロフェッショナルであった。首輪に取り付けられた小さな樽とICタグが、救助犬ロボットの証である。
鼻梁の奥、感覚を鋭敏に尖らせたセンサーをフルに稼働させる。
感度は少しもさび付いていない。
白く降り積もった雪はほぼ無臭だ。生物が居たら、比較するまでもなく一瞬でわかる。
それがたとえ数十万時間ぶりに嗅ぐ人間の匂いであっても。
人類が地表から姿を消して百十余年。
救助犬ロボット、バリィ04は、一万六千八百二十五度目となるパトロールを開始した。

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