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ここは、リオマルディア。
それはけものが住まい、街をなすふしぎな国。
人間は誰も知らない、けものだけの国です。
◇◇◇
リオマルディアの真ん中にある王都、アイリーには、ぐるりと赤れんがの家々に囲まれて大きなお城がありました。
名前は、ソレイユ城といいました。
これこそ、王さまのお城。この国を治める王さま、その奥さんである王妃さま、その一人息子である王子さま、そして王族の方々のお世話やお手伝いをする召し使いが住む、大きな大きなお城です。
白鳥のようにけがれのない白れんがの壁と旗が空を泳ぐいくつもの尖塔、何よりどっしりと構えながらも優美さを忘れないその姿は、いつだって国民たちの憧れでした。
そして、勇気ある行動で民を引っ張る王さま、優しく上品な王妃さま、まだ十になったばかりのかわいい王子さまもまたしかり。
王さま一家は、この世界で誰よりも幸せなひとびとに違いない。
国民たちはそう信じて疑わなかった────────の、ですが。
おやおや。
そういうわけでもなさそうです……。
◇◇◇
ソレイユ城の西側の尖塔の中、王子さまの部屋にて。
ふかふかのじゅうたんがしきつめられ、色あざやかなおもちゃや絵本が散らばる中で。
「いやぁあだっ!!!」
一人のアルパカの子どもが、赤子のように手足をばたつかせて駄々をこねていました。
どこからどう見ても、まごうことなき駄々っ子です。
しかし。
きっと一見しただけでは、いやまじまじと見つめたとしても、なぜこんなにも不満そうなのか、誰にもわからないことでしょう。
彼は、はためから見たって何より愛されているのは誰の目にも明らかだったからです。
真っ白いアルパカ特有の美しい巻き毛は念入りに手入れされ、身にまとう服もこれ以上上等なものはあるまい、というものばかり。
それなのに、一体何がそんなに『いや』なのでしょう?
そのあたりにいる子どもの何倍も、彼は恵まれているのに?
「……わがままはやめてくださいまし」
なおも泣き叫んではぎゃあぎゃあと吠えるそのアルパカの子どもに、そのかたわらに立った年配のキツネの男がため息をつきました。燃えるような赤い毛と黒いきっちりとした執事服がかっこいいキツネですが、その顔は呆れ半分疲れ半分といったようすです。
キツネはしっぽを振って、アルパカの子をにらみつけました。
「そんなことを言ったって急には無理ですよ、坊ちゃん。遊び相手が欲しいなんて」
坊ちゃん。
そう呼ばれたアルパカの子は、
「だってだって……!」
なおも不満そうに顔をゆがめてキツネをにらみ返しました。
このわがままな彼の名前は、ラフィ・アルパカール。
実は、この国のたった一人の王子さまです。
彼は王さまと王妃さまの間にできた一人息子。
将来のリオマルディアを引っ張る希望の星として、国中から期待されている男の子なのです。
特に今年は、大事な年でした。来年の春の頃には戴冠式があるのです。
よって王さまたちはそのための準備をすべく、いよいよ王子の教育に本腰を入れようとしていました。
………しかし。
見ても分かるとおり、次の国王としての気品や冷静さ、民を思いやる優しい心は、ラフィは持っていませんでした。代わりに持っているのは大きな権力から来た自信と、王子さまであることを鼻にかけるいばりんぼな性格、そしてとどまることを知らない欲望です。
要するに、とても子どもっぽい性格なのです。
しかしこれは一概にラフィの性格なのだ、と言ってしまうと、それは嘘になります。
ラフィだけに責任があるのではなく、周りの大人も悪いのでした。王さまと王妃さまの一人息子ととしてネコもしゃくしも花よ蝶よと甘やかした結果、ラフィはひどくわがままな少年になってしまったのです。
ちなみに、それを少しでも直そうと頑張っているのが年配で手だれのキツネの執事ことイーヴァなのですが、いかんせんこんな問題児のお世話はさしもの彼も初めて。そのわがままっぷりに手を焼き、未だ『優しく勇敢で気品のある、次の王さまにふさわしい王子さま』へとラフィを変えることはできないでいたのでした。
さて。
今日はどうやら、王子さまは『遊び相手が欲しい』と駄々をこねたようです。
「だって、このお城、オレと話の合うひとがいないんだもん。つまんない」
なんとか暴れるのをやめたラフィですが、それでも納得できないのかほおをふくらませてそう言いました。
「お話なら私どもが乗っているでしょう?」
イーヴァがそう問いかけますが、ラフィは「違う!」とその言葉を否定します。
「イーヴァもそのほかの召し使いも、みんな大人じゃん!オレはもっと同い年くらいの遊び相手が欲しいの!」
あまりに無茶なわがままに、イーヴァはほとほと呆れたとばかりに耳を伏せました。
「あのねえ。そんなことを言いましても、あなたと同じくらいの年で働けるような子なんてめったにいませんよ?あなたさまこそ家庭教師でも普通の子は学校に行くんです」
「でも、つまんないんだもん!」
おだやかにそう説き伏せますが、ラフィはぷい、とそっぽを向きました。
「………」
イーヴァは困ったようにだまりこみます。
確かに、彼が言っていることはあまりに難しいことでした。
同い年の子どもを、しかも学校に通っておらずに働き口を探しているような子どもを、見つけてこい?そんなひと、いるかどうかすら怪しいのに。まるで雲をつかむような話ではないですか。
しかし。
(同年代の子どもたちとの触れ合いを通して、思いやりや責任感を学ぶこともあるかもしれない)
イーヴァはそう考えました。
ラフィはほとんど、近い年齢の子と遊んだことがありません。
王族は悪いやつに狙われやすいがためにめったに外には出ず、また子どもたちも『王子さまは位の高い方で、一緒に遊べるようなひとではない』と考えているからです。
ラフィには『友達』と呼べる存在はいませんでした。
それは、さみしいでしょう。
いくら、王子さまであろうとも。
それなら、王さまに話してみてもいいかもしれない、とイーヴァは思いました。
友達を、思いやりを、家族とも家来とも違う特別な誰かと過ごす時間のかけがえのなさを、この子に教えてあげなくてはいけない。
それは将来のため、そして、今のひとりぼっちな彼のために。
「……わかりました」
イーヴァはうなずきました。
「え!」
ラフィが驚いたように目を丸くします。
「今すぐはもちろん無理ですが、考えてみましょう」
まっすぐこはくの瞳でラフィの真っ黒い目を見つめて、イーヴァは口を開きました。
「同い年くらいの『遊び相手』を、あなたさまのもとへ連れてくることについて」

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