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最後のおくりもの
雨が降り続くあの日の午後、私の世界は唐突に終わりを告げた。
愛する凌太が、信じられないほどの突然の事故で命を落としたという知らせ。
その瞬間から、私の時間は止まり、心には決して晴れることのない鉛色の空が広がった。毎日流す、涙だけが私の存在理由だった。
季節が変わっても、涙は枯れることなく、とめどなく溢れる悲しみが、私の視界を常にぼやけさせる。私はただただ、彼のいない現実を呪い、一人静かに朽ちていくことを選んだかのように、薄暗い部屋の片隅で膝を抱え、ただ啜り泣くだけの日々を送っていた。
愛してた。いえ、愛してる、今でもずっと。これから先も、凌太以上に人を愛することなんてない。
それが分かっていて、彼のいない世界に私だけが残されている意味なんてあるのだろうか。
そう自問するたび、心臓を直接握り潰されるような痛みが走った。
凌太がいないなら、もう生きている意味もない。私は静かに立ち上がり、ぼんやりと窓の外の雨を眺めた。どこか遠くへ行きたい。この苦しみから解放されたい。私の手は、いつの間にか窓枠に伸びていた。
「凌太の所へ行きたい、よ 」
冷たい雨が顔に当たる。その一歩を踏み出せば、全てが終わるのだ。
窓枠を越えようと手に力を入れた瞬間、ガチャッと金属の音が聞こえた気がした。
いや、気の所為じゃない。視界の隅に、玄関のドアがゆっくりと開くのが見える。
まさか、鍵は閉めてある筈なのに。
警戒しながら、しかし、今まさに命を断とうとしている自分が何を怖がるものがあるのかと、嗤いたくなった。
もう、どうなったっていい。
捨て鉢な気持ちで顔を上げた私は、そこにいた者の姿を見て驚愕する。
そこに立っていたのは、他ならぬ凌太だった。
「ただいま、菜津未」
いつもの優しい声。あの、私が世界で一番大好きだった声。

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